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アタシは彼の怒られた犬のようなこちらを伺う顔にとても弱い。守ってあげたい、何でもしてあげたいと思ってしまう。アタシはいいと言ってしまった。
彼との1人目の子は意外とあっさりできてしまった。日に日に膨れていくお腹を見ていると彼の愛を感じてしかたがなかった。彼は今までよりも早く仕事から帰って来るようになった。アタシに優しく接して、子供の名前を一緒に考えたり、お腹の子に声をかけたりしてくれた。こうすればよかったんだと思い知らされた。
生まれてきた子は女の子で夏に生まれたから千夏と名付けた。安直だかとてもあたしたちは気に入っていた。千夏ちゃんはすぐに大きくなった。彼は家にはアタシがいるから幼稚園には行かせないようだった。千夏ちゃんはあまり泣かない子だった。転んでも、怪我をしても絆創膏を貼ってほしいと言える素直な子だった。彼もアタシたちを愛おしそうな表情で見ていた。そのはずだった。
彼が千夏ちゃんに手をあげた。その顔は怒りにも驚きにも取れない感情のない顔だとアタシは思った。アタシと話していた千夏ちゃんは何も言わずに寝転がっている。アタシはまた、涙が流れなかった。悲しくもなかった。アタシは千夏ちゃんを愛してはいなかった。他人のように感じていたようだった。それにアタシは彼がアタシを愛していると感じた。千夏ちゃんは少し遠くの山に彼が埋めた。
それからの日々はあの子が生まれる前に戻ってしまった。でもアタシは彼の愛を四六時中感じていた。あの子の死が彼の愛情表現だと感じた。ある日、突然昼間に吐き気を感じアタシはトイレへ駆け込んだ。苦しかった、寂しくて彼に会いたくなってすぐに連絡をした。彼が家に帰ってきた時には2人目を妊娠したとアタシは知っていた。今回は2人とも望んでいなかった。できて欲しくなかった。生まれる前からこの子は赤ん坊のまま孤児院に渡そうと話をしていた。生まれてきた赤ん坊はハートのような白いアザを握って生まれた。また女の子だったけれどこの子はきっととても可愛い子に育つ、そうアタシたちは確信していた。だけれど決めていたことだったからこの子の成長は見ることが出来ない。1番目の子のような運命は辿っていけないから。
できる限り安全で信頼できて子供の少ない孤児院に置いてもらった。名前は愛香。アタシは愛(ラブ)ちゃんが良かったけれど、彼がそれは恥ずかしいからととめられた。この子はきっと愛情に満ちた人達に囲まれて生きていく。アタシも彼もそう思っていた。