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「――そこまでだ」
そう言って、教室に踏み入る。
須藤と花野井は驚いたように俺の方を見た。
「須藤、それ以上花野井に触るな。離れろ」
「九条ッ……!!!!!」
須藤の表情は、以前に校舎裏で脅されたときそっくりだ。
いや、あれ以上に残虐性が増しているかもしれない。
「そうよ。彼女の顔が見えないの?」
「っ!!! し、雫……」
一ノ瀬が俺に続いて教室に入る。
須藤は一ノ瀬を見て驚いたように目を見開いた。
「早く離れろよ」
固まる須藤を睨みつける。
「ッ!!! クッ……」
気圧されたのか、一ノ瀬がいるとわかったからか渋々花野井から手を離した。
花野井は逃げるように俺の後ろに下がる。
「どうして九条と雫がここにいるんだ? しかもこんな遅くに」
「花野井を見る須藤の目に嫌な予感がしたからな。それに須藤が、花野井が戻ってくるだろうタイミングで教室に向かうのを見た」
「ッ!!!」
「だから何かするかもしれないと思って一応俺たちも見張ってたんだ。でもまさか、こんなことになるとはな」
須藤がここまで強引な手段に出てくるとは思っていなかった。
ただ、リレーで俺が須藤に勝ったのもあるし、もしかしたらとは思っていたが……やはり残っていてよかった。
「やっぱりあなた、普段は猫被ってたのね。通りで嘘臭いと思ったわ」
「し、心外だなぁw俺はいつも通りだよ?」
「取り繕っても無駄だ。だってお前と花野井の会話を“最初から”聞いてたからな」
「ッ⁉」
この話をするには、まず謝らなきゃいけない人がいる。
「ごめん、花野井。ほんとはもっと早く割って入ることができたんだ。でも、須藤が尻尾を出すところを“撮りたかった”から」
「え? それって……」
言いながら、ポケットからスマートフォンを取り出す。
そしてそれを須藤に見せつけた。
「ここにさっきまでの須藤の行動が“録画”されてる。花野井に強引に迫ったところも、だ」
「ッ⁉⁉⁉ な、なんだとォ⁉」
「だからここまで泳がせたんだ。花野井、ほんとにごめん」
花野井に深々と頭を下げる。
花野井が怖い思いをせずに済んだ未来がありながらそれを選ばなかった。
つまり、この状況を作った責任は俺にもある。
「それは……」
「謝るのは私の方よ。だって私が九条くんを止めたんだもの」
「一ノ瀬……」
「九条くんは初めから助けにいこうとしてた。でも後々を考えて私が提案したの。だから責めるなら私を責めて」
一ノ瀬の言葉に、花野井が首を振る。
「ううん、責めるなんてしないよ。だって私何もされてないし、二人のおかげで助かった! だからむしろありがとう」
「花野井……」
なんてできた人間なんだ。
思わず感心していると、須藤がケラケラと笑いだす。
「アハハハハハハッ!!! あァそうかよ!」
「何がおかしいんだ?」
「勝った気になってるようだけどなァ、別にそんなの意味ねェからwwwこの学校での俺の地位わかってんのか? そんな動画出したところで信じる奴はいねェよ!wwww」
「そうかもな」
「ハッ! 頭回ってねぇなァ!!!」
俺に向けていた視線が、今度は花野井に移る。
「おい彩花ァ! こんな奴のどこがいいんだよ? 俺の方が数百倍はいいじゃねェか」
「っ!!!」
「今なら取り消してやってもいいぜ? 俺とデートするって言うならなァ!!」
須藤の言葉に花野井が俯く。
きっとさっきの恐怖体験が花野井にそうさせているんだろう。
ますます申し訳なくなってくる。
――しかし。
「……びっくりしたよ、須藤くん。あなたがそういう人だったなんて」
「あァ? なんだと?」
花野井が顔を上げ、揺るがない瞳で須藤を見る。
そして強く言った。
「須藤くんとはデートしない!!! それで――九条くんの方が何百倍もカッコいいよっ!!!!!!」
「ッ!!!! この野郎……!!!」
須藤の表情が険しくなる。
そして今度は俺を睨みつけてきた。
「……さっきはリレーで負けたけどな、今度こそ証明してやるよ。――どっちの方がすごい男かっていうのをなァ!!!」
その言葉を皮切りに、須藤が襲い掛かってくる。
「九条くんッ!!!」
「下がって」
一ノ瀬と花野井をより俺の後ろに下がらせ、須藤を睨みつける。
圧をかけるも、須藤はひるまずに突進してきた。
……仕方ない。
「オラよォッ!!!!!」
須藤が俺との距離を詰め、力任せに殴り掛かってくる。
大振りの右ストレート。
「――甘い」
それを避けようと左に移動したその時。
「馬鹿がァッ!!!!」
右拳を瞬時に引っ込め、本命の左ストレートが飛んでくる。
つまり大振りの右はダミー。
勝利を確信したように、須藤がニヤリと笑う。
――しかし。
「ッ⁉⁉⁉」
須藤の左腕を払うとそのまま頭の横に流し、腕を掴んだ。
そして須藤の勢いを利用して投げ飛ばし、地面に叩きつける。
「グハッ!!!!」
地面に倒れる須藤。
そんな子供騙し、俺に通じるわけがない。
身体能力が高い分、それに頼り切ってきたのだろう。
明らかに喧嘩慣れしていない。
いや、少しかじっているからこそ行動が読みやすい。
「証明する、だっけ?」
「ッ!!!」
須藤を見下ろす。
須藤は叩きつけられた痛みに顔をゆがめ……。
「ハッ!」
須藤がぎこちなくもニヤリと微笑み、手に持っているスマホを見せつける。
「それは九条くんの……」
「脇が甘いんだよwww」
須藤がのろのろと立ち上がる。
「この映像はマジで意味ねぇモンだけど、万が一のためにない方がいいからなwwwだから……こうさせてもらうぜッ!!!」
須藤が俺のスマホを地面に叩きつける。
割れるスマホ。
歪み、完全に破損してしまった。
あれじゃ中のデータを取り出すことはできないだろう。
「アハハハハハハッ!!!! 残念だったなァ!!!!」
「須藤くん! 何したかわかってるの⁉」
「安全確保だよwみんなしてることだ」
「っ! 最低っ……!!!!」
「よく言うぜwww」
余裕そうに笑う須藤だったが、やはりダメージは残っているようで背中を押さえていた。
あんなに早く立ち上がる方がおかしい。
きっと相当無理してるんだろう。
「おい九条。ここまで俺のモン奪って、さらに恥かかせたんだ。――タダで済むと思うなよ」
「俺は普通に生きてるだけだけどな」
「近いうちに絶対お前を潰す。覚悟しとけよ?w」
「そのセリフ、前にも聞いた気がするけどな」
「うるせぇなお前!!! チッ」
須藤が乱れた服装を整えて、教室の外に向かって歩き出す。
そして出る直前、
「またなァ、九条」
そうとだけ言い残して、須藤は教室を出ていった。