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「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
外は大雨で空中を稲妻が走り、これから起きる最悪を予言するかの様な天候だ。誰も居ない、深夜の校内で男の声が微かに響き渡る。それは半人前以下の魔術師すら名乗れない男―――俺が聖杯戦争に参加する為の権利を得る行為。
「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
体育館程では無いが、それなりに広くて誰も近寄らない教室。その中央部で召喚に必要な触媒が設置され、その周りを魔法陣が囲っている。
触媒―――それはとある博物館から魔術を用いて盗み出した、太古の昔に存在していた文明。神々の世から人々の世への過渡期として、神秘が色濃く残る紀元前2655年古代メソポタミア。その時代に顕現していた古代都市”ウルク”遺跡の一部。
「――――――告げる」
身体から力が抜けていくのが分かる。立っているのもやっとだ。それでもこの召喚儀式だけは成功させなくてはならない。それが俺の、願いに必要な行為だからだ。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
触媒を中心に暴風が発生する。召喚を拒むような感じでは無く、まるで俺を見定めるかのように。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
赤い稲妻と共に白い光が教室全体を包み込む。あまりの眩しさに俺は顔を腕で覆う。暫くして光が消え、触媒が設置されていた場所に一人の男が立っていた。
黄金色の頭髪に赤いズボン、容姿からは想像できない程の威圧感。もし俺が魔術を使えなかったらその場で気絶して倒れ込んでいただろう。気を強く保ちつつ、その人物に向かって話し掛ける。
だが、言葉を発するより先に一本の槍が俺の喉を搔き斬る。あまりの激痛に意識を失いそうになるが、舌を噛んで正常を保つ。声は出ない、ならば行動で表現するのみ。
その場で膝を着いて、目の前の人物を崇める様に頭を下げる。
「―――喉を抉られても尚我に忠誠を誓うか。だが、その程度の行動で我を呼び出した事の赦しになると思うでないぞ」
声が出ない。それでも俺は頭を上げない。
俺は高度な治癒魔術は使えないが、低級のそれこそ駆け出しの魔術師が使う様な治癒魔術は使用可能だ。
目の前の人物に悟られない様に治療し、発言できるまで回復した所で、 言葉を発する。
「恐れながら、偉大なる御方に対し不敬な行動を取ったことに謝罪と拝謁の許可を頂きたく存じます」
その一言で空気が一変、先程よりも大きな圧が全身に降り掛かる。
「良かろう、我が姿を拝謁する事を許可する。それにその姿勢と雑種の腕一本に免じて先程の愚行は許そう」
喋り終わると同時に左手が爆ぜ、肩から先の感覚が全て無くなる。悲鳴を上げたい、逃げ出したい、終わらせたい。だが全てを噛み殺して正気を保つ。
「有り難き幸せ…っ」
止血は既に済んでいる。血管の一線一線をギッチリ繋ぎ合わせて循環を再び再開させる。俺の低級魔術を見て目の前の人物は溜息をつきながらも何やら企んでいる様な顔で俺に問いかける。
「………貴様、魔術師と呼べる程の力を持たずしてこの聖杯戦争に何を願う」
俺は素直に全て答える。
「恐れながら。私は我が王の補助に徹する程の魔術師でない事を自覚しています。それが故に、私は魔術師として大成し、この地を統べる者と成る事を願います」
「………くだらん。我の二番煎じなら興醒めする程の愚行だと知れ。――― だが、貴様のその姿見は”教師”と言う役柄の者が身に纏う衣服と言うのは心得ている」
「それに、”教師”はこの地の”生徒”と呼ばれる民を育て導く者であろう。ならば貴様はこの『学校』と呼ばれる地でのみ、精々王を気取っているがよい」
「………しかし、我は今頗る暇を持て余している。貴様のその愚願で場を凌ぐとしよう」
最後の一声で目の前の人物が立ち上がり、大きな声で俺に再び問い掛ける。その顔はまるで、
「答えよ!貴様が我の権威を求めし魔術師か!」
手の甲に刻まれている赤い模様、令呪が全ての想いを宿して光を放つ。
ついに聖杯戦争が勃発する、この先の出来事は何一つ想像出来ないがそれでも俺は―――
魔術師。マスターとして、闘う。