魔物の襲撃を無事に退けた後、村の酒場で集まった村人がサブとみりんに感謝の言葉を述べていた。だが、みりんの表情はどこか曇っている。サブがそれに気づき、声をかけた。
「おい、どうした?さっきからなんか顔色悪くないか?」
「別に、なんでもない。」
「ほんとか?なんか気になるな……」
みりんはサブの心配そうな視線を避け、無理に笑みを浮かべた。
「大丈夫やって、ほんまに。そんなことより……あの親父、なんであんなに遅かったん?」
サブはみりんの言葉に気づいた。先ほどの魔物の襲撃時、村の酒場の親父はなかなか助けに来なかった。酒場の親父、ガルス。無愛想で力強い男だが、その時は村の人々のために何もしなかった。
「確かに、遅かったよな。なんか気になるな、あの親父。」
「気になるってレベルじゃないわ。あいつは、ただの村の親父やない。」
みりんの言葉に、サブは眉をひそめた。
「どういうことだ?」
「ガルスはただの酒屋の親父ちゃう。裏でいろんなことをやってる、要するに“村の支配者”や。」
「……支配者?」
「せや。酒場の親父がこの村を牛耳ってるってわけや。」
サブは思わず肩をすくめた。だが、みりんは続けた。
「こいつはただの商人なんかじゃない。マフィアの元構成員で、この村を“管理”してるんや。」
その言葉に、サブは驚きを隠せなかった。ガルスがそんな人物だとは思いもよらなかった。
その日の夜、サブとみりんは酒場の親父、ガルスと再び顔を合わせた。ガルスは普段通りの無愛想な態度で、二人に近づいてきた。
「お前ら、なかなかやるな。村を守ったことに感謝する。」
「……ふん、感謝ならいらんで。」
みりんは素っ気ない口調で言った。
「お前さん、あれだけ騒がせといて、よくその口が言えるな。」
「ほう、やっぱり気づいてたか?」
ガルスは冷ややかな笑みを浮かべ、ゆっくりとサブとみりんを見回す。
「お前らが想像しているよりも、この村はもっとダークな場所だ。俺がここの親父として名を上げたのは、ただの偶然じゃない。」
「お前……マフィアの元構成員だろ?!」
みりんが鋭く言うと、ガルスは肩をすくめた。
「まあな。俺の昔を知ってる奴は、もうほとんどいねぇよ。でも、昔の仲間たちが引き起こした騒動を沈めるため、俺はこの村で“別の顔”を作った。」
「……それで、この村を支配しているってわけか。」
サブの声が冷たくなる。
「そうだ。だが、お前らも勘違いしてるな。この村で生きるためには、力と知恵が必要だ。俺はその“力”を持っているだけだ。」
「そんなこと、僕には関係ない。」
みりんが一歩前に出て、ガルスをにらみつける。
「そんで、何が目的なんだ?僕たちを脅すつもりか?」
ガルスはしばらく黙っていたが、やがて深いため息をつき、目を細めた。
「脅しじゃねぇよ。俺はお前らに、ただ一つだけ警告しておきたかったんだ。」
「警告?」
「お前らがこれからアバロン・オブ・ラグナロクを目指すってのは、俺はもう見てる。けどな……そこには、俺が引き受けたくなかった“遺産”が待ってる。」
みりんとサブは顔を見合わせる。遺産?
「お前ら、覚悟はできてんのか?」
ガルスの言葉に、二人は何も言えなかった。
その夜、酒場の外で風が冷たく吹き荒れていた。サブとみりんは、ガルスの言葉が頭から離れなかった。
「……あいつ、なんか言いたいことがあるんじゃないか?」
サブが呟くと、みりんはしばらく黙って歩き続けた。
「言いたいことなんて山ほどあるんやろな。でも、あんな奴に引きずられてたまるか。」
みりんは目を鋭くし、再び前を見つめた。
「僕の目的はただ一つ、この村を抜け出すこと。それだけや。」
サブはその言葉にしばらく沈黙していたが、やがて言った。
「俺も、アバロン・オブ・ラグナロクへ行くつもりだ。何が待っていようと、俺は進む。」
みりんは不意に振り返り、サブを見つめた。
「……お前、ほんまにアホやな。」
「アホかもしれないけど、後悔しないためには進むしかないだろ?」
みりんは少しだけ顔を緩めたが、すぐに真顔に戻った。
「なら、行くぞ。お前も覚悟を決めとけよ。」
「おう、任せろ!」
その言葉と共に、二人は再び歩き出した。アバロン・オブ・ラグナロクへ向けて――彼らの冒険は、さらに深い闇へと踏み込んでいくのだった。
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