「卑怯だぞ、こんな、やり方」
アントンを押しのけ、起き上がりながら言うと、アントンは悪びれもせず言い返してきた。
「好きな人を目の前にして何もしないよりマシだよ」
「なん、だ……それ」
「行動が伴わない好きは本当の好きじゃない。僕はそう思う」
確かに、そうかもしれない。相手に気遣っているふりして、自分が傷つきたくないだけ。
「ヒョンは……ずるいよ。本気で僕がイヤなら拒絶すればいい」
「いやな……わけじゃ」
「仕事とプライベートは別だよ。いくら一緒にいる時間が長くても」
「今は仕事のことしか考えられない」
「じゃあなんでこんなこと……してるの」
指を絡められ、距離を詰められて。
おでこをくっつけられる。嫌いになれるわけがない。離れることだって、できない。
それはきっと誰に対しても。
「お前が、離れればいいだけだ」
「やだ」
鼻と鼻がくっつく。自分で自分がわからない。
「ホント、ずるいね……」
唇のすぐそばでアントンの唇が動く。そのまま重ねられて、押し倒される。
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