「あ」
………金木犀だ。
横顔の、鼻から唇にかけての緩やかなカーブを覗かせて、彼は呟いた。
「いい匂いやな」
「ん~~っ、もうそんな時期かぁ…」
欠伸みたいな静かな伸びをして言う。
一年ってのは、ひどく、早いもんだ。特に去年から。貴方が隣にいるようになってから。
「…ウチもそろそろ布団出さなきゃかねぇ」
「おいそれMENも手伝えよ。絶対。」
去年俺一人でやったの、まだ根に持ってるからな。とか、口を尖らせるのはとなりの人。
「へいへい」
「返事は一回」
「あーーい…」
…空気が雪になってきた、ような気が、する。冬の朝みたいな香りがしたから、今日はなんとなく寂しかった。
秋は儚いからなぁ、なんてどうでもいいことを考えるのも、まぁ、貴方の隣だからなんだけど。
「……………。」
「…、」
おんりーちゃんには金木犀の香りがよく似合う。と、思う。
こんど部屋に金木犀の花飾ろうよ。柄じゃないけどさ。
…そしたら、すこしだけ、笑ってくれないだろうか。猫の話なんかして、ふふって、笑ってくれないだろうか。
とか、考える、帰路。
また、冬になったら、雪が降って、真白の中に咲く一輪の、そのひとつの花弁みたいに、ひらりと佇むおんりーちゃんが、いるのかしら。
なんて。
次の春も夏も秋も、また、おんりーちゃんがいて、また少し口を尖らせて、それでも、隣にいてくれて、なんて、欲張りなんだろうか。
「……いやぁ、でも俺ぇ、煩悩の塊だしなぁ!」
「うわびっくりしたぁ、なに急に……」
「…………来年も再来年も、さ、おんりーちゃんのこと、俺が独り占めできるんかなって。」
「……………………あほ。」
「何、ちょっと不安になってるんだよ」とおんりー。
それでも、それでも、今だけで小さな世界が満たされてしまう。だから、今は。
鼻の頭が少しだけ赤くなっているのは、…まぁ、来年と再来年くらいまでは、秘密にしてやろう。
コメント
4件
フォロー失礼します