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「先生……!!」
グランドピアノの縁に両手をついた少年が、苦しそうに声を抑えている。
「あ……は……んんッ!」
少年の黒くサラサラな髪が揺れるたび、荒い息遣いで漆黒の鏡面が曇る。
「あ、イク、イク!イッちゃう、せんせえ!!」
少年の掠れた声が、ピアノ室の防音壁に吸い込まれていく。
「イッていいよ……?」
腰を抑えた男が囁く。
「や……だ、せんせえも一緒に。一緒に……」
少年が振り返る。
潤んだ目で男を見つめる。
「今日は、中で出していいから……!」
「虹……原……!」
男が少年の中に吐き出した。
ビクンビクンと震える男が、少年のまだ硬いものを掴み上下に激しく擦る。
「あああッ!!」
少年も悲鳴のような声を上げる。
「ダメだ……。そんな声出したら……」
男の大きな手が、少年の喉に優しく触れる。
「歌えなくなるぞ……」
少年は恨めしそうに男を睨んだ。
「今さら……でしょ……?」
そしてどちらからともなく示し合わせたように―――。
グランドピアノを照らすライティングレールから、
二つ並んで吊り下げた紐を見上げた。
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「だめだ……!!」
久次は叫びながら、自室のベッドから飛び起きた。
「はあッ……はあッ……」
呼吸が落ち着かない。
最近、この夢をよく見る気がする。
今までも皆無ではなかった。
だがここ数週間、明らかに彼のことを思い出す頻度が上がっている。
告白してきた中嶋のせいか。
それとも抱擁をせがんできた瑞野のせいか。
どちらにしろ……
「いい傾向じゃないな……」
だめだ。
あの頃の自分たちと、彼らを重ねてはいけない。
あの事件の喪失感を埋めるのに、彼らの淡い恋心を利用してはいけない。
久次はびっしょりと汗をかいたタンクトップを脱ぐと、フローリングに投げつけた。
『せんせぇ………』
耳元で声変わりを終えたばかりの、かすれた声が響く。
彼のことはもう………忘れられたと思っていたのに。