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耳を劈くような狂った笑い声が、真昼だと言うのに薄暗く湿った裏路地に響く。陽が当たらないと言うのにも関わらず、その瞳は狂気に塗れて穢く輝いていた。何時からこうなってしまったかなんて、僕にも分からなかった。僕の周りに転がる、空になった幾つもの注射器。少しの赤色と、その周りを飾る吐瀉物。焦点の合わない瞳に映るのは、一体何なのか。そもそも映っていないが正しいのか。それは僕にしか分からない、若しくは僕にすら分からないだろうか。仲間はもう呆れ果てて離れて行ったかもしれない。もう数ヶ月も顔を合わせていない彼らは、今どうしているだろう。そんな事を考える余裕すら無かった。有限の快感に溺れ、無限の苦痛を味わう。その苦痛を忘れたくて、また有限の快感を求めて。それの繰り返し、もう戻る事は不可能に限りなく近い。いや、戻る気さえ無いのかもしれない。楽しい楽しい幻影で満足出来るのなら、きっと何も要らない。栄養の不足で以前より少しだけ細くなった身体に、続く苦痛でまともに眠れず睡眠が足りないと嘆いている頭。それら全部を無視して、また見えない快感に耽っている。数秒、数分、数時間。幾ら経ったかも分からない、そんな時。猛烈な頭痛に吐き気に眩暈。そんなのを一気に食らえばもう立つ事すら儘ならない。荒い呼吸と共に、地面に崩れ落ちる。嗚咽を洩らし嘔吐きつつも、ぐらぐらと揺れる視界を遮断しないように意識を集中する。何度目だろうか、数える事すら面倒臭くなる程に繰り返されているルーティーン。
「ッアハハ、お゙ぇ、げほ…っはぁ、はぁ……ハハ」
全部可笑しくなってしまって、酷く苦くて塩っぱくて酸っぱい胃酸を呑み込みながら笑う。嗤う。咲う。笑うって、何?そんな基本も常識も全て捨て去ってしまった僕に、救いは訪れるのか。それはきっと神すら知らない。口の端から涎を垂らしながら、気味悪く歪んだ口角を戻す事もなくまた新しい注射器へと手を伸ばす。こんな事なら、なんて今更後悔したって遅いのだ。幾ら泣いても喚いても、どれだけ懺悔したって変わらない。そう易々と全てのキズが治るような、そんな簡単に廻るような世界じゃない。そうだったらどんなに良かった事か。けれどそんなに甘くない、苦くて辛くて仕方の無い世の中なのだ。可笑しくてお菓子くて変えようのない社会なのだ。その手が伸び切って、掴もうとしたその瞬間であった。手首に、力強くも暖かい、そんな感覚がした。その手を掴んだのは、他でもない、僕が一番に大切にしていた仲間。驚いたように目を見開き掴んだ手の伸びる方を見上げる。けれど、その目には何も映っていない。誰が誰かを識別する能力すらも捨て去ってしまったのかもしれない。けれど僕の手を掴んでいるその人物は、絶対に目を逸らさなかった。周りに広がる吐瀉物と鼻を突くような酷く刺激の強いその臭い。醜く歪んだその姿からも、目を逸らそうとしなかった。正に光とも言えるその姿は、心配そうに瞳を揺らした。
「…類」
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