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過去にも似たようなことがあったのね。
松原女史との会話で、近野さんに対して抱いていた疑惑がより深まったようにも感じて、
その日の夜、会うことになっていた政宗医師に、彼女のことを切り出した──。
「……先生、近野さんのことなんですけど……」
「近野さん? 彼女が、どうかしましたか?」
家のソファーでワイングラスを手に寛いでいた彼が、首を横に傾ける。
「……変なんです…なんだか……」
「変と言うのは……?」
ワインを口に含み怪訝そうな表情を浮かべる彼に、
「うまくは言えないんですけど、ちょっとなんか引っかかるような感じで……」
と、自分もワインを飲んで話した。
「引っかかる……というのは?」
「……こないだ、ランチをいっしょにした時に、先生とのお付き合いのことを、知っているような素振りをされて……」
近い方がより話しやすいだろうと、少し離れて座っていたのを彼のすぐ隣に行き、改めて腰を落とした。
「それに彼女、松原さんの話だと、クリニックをたまに急に休むことがあるとかって……」
今までは、近野さんとは業務が違うこともあって、そんなに気にしたことはなかったけれど、
確かに女史が言っていたように、突然に休んでいたような印象もあった。
「ちょっと待ってください……私たちのことを知っているようで、たまに急に休む……?」
彼から驚きを隠せない風で問い返され、「はい…」と、自分も訝る思いで頷いて応えた。
「……関係を知っている上に、急に休むというのは、もしかしたら……」
すると何かを思いついたようにも彼が口にして、それから、
「……。……もしかしたら、彼女は……、」
そう、確信めいたようにも言いかけて、
「いや、しかし、まさか……」
と、ひとり首を横に振り、再び口を閉ざした。
「先生には、心当たりが……?」
「心当たりというか、ただ……」
彼が口を片手で抑えるようにして、
「ただ、似たような感覚を思い出して……」
まるで吐き気にでも襲われたかのように顔を歪ませて、眉間に深く皺を刻んだ。