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ワインがこぼれそうにもなっている彼の手から、グラスを引き取って、
「先生、大丈夫ですか?」
二つのワイングラスをテーブルに置き、そう気遣った。
「ああ、すいません……」
すると彼は、じっと伏せていた目を見開いて、
「……彼女の経歴を、少し調べてみる必要があるかもしれませんね…」
と、思い切ったようにも口にした。
「……経歴を、調べる?」
言葉の真意をはかりかねて聞き返すと、
「……少し、思うところがあるのです……。確かなことがわかれば、またお知らせをさせてください」
彼からの答えに、まだ本当のところはわかっていないらしいことが知れると、私もそれ以上は何も聞かずに待っていようと思った──。
そっと寄り添っている傍らで、「はぁ…」と彼が息をついて、ソファーに疲れた様子で深く沈み込む。
「……あっ、ワインは……」
手にしていたグラスがないことに今になって気づいた様子で、ぼんやりと口にする彼に、
「……ここに」と、手渡して、「先生、さっきの話がそんなにこたえられていて?」ひと息に飲み干されたグラスに、ワインを注いだ。
「……それほどだったのなら、もうこの一杯で飲むのをやめられて、あまり飲みすぎない方が……」
彼が心配でそう声をかけると、
「ん……」
充血して赤く潤んだ瞳で、私を見つめ、
「もう少し飲ませて……。飲まないと、もたないのです……」
彼は、再びグラスの中身をぐっと煽った。