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キャンベル号は、軍の高速輸送船という地味な用途に反して、白く美しく塗装されていた。いかにもスーサリアらしい。
タクヤたちは小型船からタラップを上がって乗り込んだ。
さすがに揺れはほとんどなく、ユリは胸をなでおろした。
タクヤたちは、スチール製の階段を上がり、艦橋に案内された。
ガラス窓の向こうに雄大な海が広がる艦橋で、かっぷくのいいベテランの女性船長と挨拶を交わした。
船長は、軍人らしく規律正しい態度を前面に出しつつ、祈り師の船酔いについては丁寧に気を使ったくれた。
「あいにくこの先の航海では嵐になることも予想されています。ユリさんには、薬で眠ってしまうことをおすすめしたいですが、いかがですか?」
「ご迷惑をかけないようにしていただくのはありがたいです。でも、だとしたら、その前にやることがあります」
「なんですか?」
「タクヤ様に、祈りの治療を」
「なるほど」
「一日一回はやっておかなくてはなりません」
「では、高速巡航に移る前に医務室でどうぞ」
「ありがとうございます」
「私はどうしたらいいのかしら?」
と不満がかくしきれないミルシードだった。
ユリが船酔いに弱いのはかわいそうだと思うし、タクヤに祈りの治療が必要なのも理解するけど、ここでの主役は、あくまでタクヤ様と私のはず……
ゼンが横から船長に質問した。
「オレたちは、船を見物させてもらっていいですか。不測の事態のために、一通り、見ておきたい」
ゼンの目配せ。つまり『オレたち』とは、ミルシードと二人という意味だった。
「ご自由に」
とラインが応えると、船長も快くうなずいた。
「ところで、見ておくといえば」とたて続けにミルシードが言った。「船長さん、こんなこと質問してあれですけど、お食事はいい感じですの? もちろん、これがたんなる観光旅行でないことはわかっております。しかし、いちおう旅の醍醐味と言いますか、いろいろ体験してみたい年頃ですの」
船長は苦笑して頷いた。
「食事の希望も、あればスタッフにどうぞ。贅沢は無理ですが、可能な限りの配慮はできると思います」
「美味しいカレーがいただけるというのは本当ですの?」
「カレーでよければ、今すぐでも食堂に行けば食べられるかと」
「あら、そう、それはいいわね。ごほん」とミルシードはせき払いをして、はやる気持ちをおさえつつ続けた。
「それはそれとして、この船は北海ルートよね」
「はい」
「では、幻の海ナマズ、メッチャウマイの漁場も、近いのでは?」
「近かったとして、どうなさるおつもりですか?」
「たとえば、近くの漁船に知らせて、直接、買い付ける、という発想はできませんこと?」
当然のことのように言いきるミルシードに、船長は思わず苦笑した。
「これはまた、無茶をおっしゃる」
「もちろん、大きな時間ロスになるならあきらめます。が、メッチャウマイは、たぶん、ここ一、二週間がチャンスだったはず。わたくし、まだ一度しか食べたことがございませんの。いえ、大切なのは王子のお食事ですわ。何度も質素なカレーでは心が痛みます」
船長はため息をついてうなずいた。
「わかりました、いちおう試してみましよう」
「で、もしメッチャウマイが本当に手に入るなら、相応の礼を用意しましてよ。もちろんお金の心配いりません。買えるならスタッフみなさん全員の分も買ってしまっていいわ。メッチャウマイパーティしましょう」
「は、はあ……」
横で会話を聞いていたゼンは、ミルシードの「自称・強い女」はホンモノだ、と理解した。