コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
その場に、ふらっと現れた加賀谷京志は、春也を無表情で見つめていた。
「てめぇ、なんのようだ!」
「別に、小さい街だ。たまたま通りかかっただけだ。」
「あぁ、そうかい。こっちは取り込み中だ、よそから帰れや」
「なあ、スポーツマン。ボクシングって、こんなんにも耐えられるん?」
川上がニヤつきながら、再びバットを振りかぶる。
地面に倒れてる春也は――何も言わん。
呻き声も、反抗の言葉もない。
ただ、唇を噛みしめて、睨み返す目だけは折れてへん。
(……あいつ)
目の前でやられてる奴に、手を貸す理由なんてない。
……けど。
「(なんでやろな……)」
京志の脳裏に、一瞬だけ過った。
――あの頃の自分。
強くなれ言われて、何も返せずに拳を受け続けた、小さい頃の自分。
京志は無意識に、足を一歩前に出した。
その足音に、江藤の仲間のひとりが気づく。
「お? まだ見学すんのか? 新入りくんよォ」
そう言って笑う声に、京志は黙って近づく。
誰もまだ、気づいてない。
その目に、殺気が宿ったことに。
そして。
川上が「オイ、なんか言えや春也ァ!」と叫んで――
春也の顔面に蹴りを入れようとした、その瞬間。
「――そいつに、足あげてみ」
京志の声が、静かに落ちる。
全員が振り返る。
京志の顔は無表情。
けど、目だけが鋭く光っていた。
「お前、誰に言うとんねんコラ!」
江藤が怒鳴って、前に出た――瞬間。
ドン!
江藤の腹に、京志の膝が突き刺さる。
そのまま江藤は、膝ごと吹っ飛ばされて地面に沈んだ。
動揺する連中に、春也を指差して京志が一言。
「こいつが弱いんと、お前らが調子乗ってええのは、別やろ」
江藤が倒れたまま呻いている。
周りの数人が息を呑む。
「な、なんやコイツ……」
「アイツ、江藤を一撃で……」
「マジで何者やねん……」
誰もすぐには動けへん。
鉄バットを持ってた一人が、焦って後ずさる。
京志はそいつのバットをちらりと見る。
次の瞬間、目線だけでプレッシャーを送る。
――逃げるか? かかってくるか?
どっちでもええ、いう顔や。
川上は怯えて、バットをポトッと地面に落とした。
「く、クソッ……もうええやろ、引くぞ!」
一人がそう叫ぶと、他の数人もバタバタと後退し始める。
江藤の腕を掴んで、引きずるようにその場から逃げていった。