コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
9.また追いかけて。
「んで、なんで俺まで呼ばれた…?話ならお前らだけでできるだろ。」
「とか言って来てくれる所冴らしいよね〜笑」
リビングの机に俺と凛が横、俺の正面に黒名。凛の正面に冴のように4人で座っている。
俺の言葉に冴は舌打ちをして帰ろうと立ち上がるが慌てて俺が連れ戻す。
「早く済ませろ。何の話かしらねぇが大事なんなら余計にお前らだけでするべきだろ。」
冴がキレ気味に足を組み直す。
黒名は相変わらずの無表情でコップを握ったり離したりを繰り返している。
「凛、冴たちを呼んだって事は何か関係があるんだろ? 」
さっきから凛は黙っていた。
朝、冴達が来る前からずっと下を向いている。
重たい雰囲気の中、凛がやっと口を開いた。
「冴から持ちかけられた。」
「…あぁ。」
冴はすぐに凛の言葉の意味を理解したのか目線を下げた。
「フランスに行ってもう一度サッカーをやろうと思う。冴と一緒に、来週飛行機で。」
「来週って…そんな急にッ」
思わず席を立ってしまうも凛は何もしない。
座らせる事も落ち着かせる事も。
ただ黙って真っ直ぐに俺の目を見るだけ。
黒名が俺の手を引いて椅子に座らせる。
「俺が話を持ちかけたのは1年前。すぐにでも行かせたかったのにコイツが潔を気にかけすぎて決断を遅らせてた。」
「…もう時間がなかった。昨日の夜、潔が寝てからフランスの所属予定チームにお願いした。」
凛は思ったよりも淡々と話していく。
黒名が俺の手を軽く握ってくれているおかげで体の衝動やらは抑えられる。
でも心の整理はつかなかった。
「…潔、フランスに来い。」
凛の一言に俺だけじゃなく、黒名も冴も目を見開いた。
「凛、いくら何でもそれは…ッ!」
「潔だって凛が行くことにさえ、まだ整理ができてないんだぞ!?」
「…分かってる。その上で話してるんだ。」
凛は立ち上がった。
俺は凛を見上げるようにして目を合わせる。
冴が鼻で笑って黒名を呼び出す。
2人も立ち上がって部屋を出ていく。
「潔、凛は本気だ。お前の出した答えならソイツは怒りなんかしねぇから。」
冴が出ていく間際に俺にそう言った。
2人の影がこの部屋から消えていく。
部屋の扉が閉まった後2人のやり取りが微かに耳に届く。
「なんで俺呼ばれたんだ…?」
「潔が不安だったんじゃねぇの。」
「大事な話とはいえ俺関わってない。」
「うるせぇ、帰るんだから一緒だろ。」
いつもならこんな2人の会話にも凛と余裕をもって笑っていただろうか。
「何やってんだ兄貴。」「黒名は確かになんで呼んだんだろ笑」なんて言って肩を寄せ合っただろうか。
でも今はそんなことできなかった。
今はまた凛がいなくなってしまうことだけを考えてしまう。
「…玲王に言ったんだ。もう満足だって。もう離さないって約束してくれたじゃん…。」
「…潔。」
あの日とは違った涙が溢れる。
少なく、重い涙が頬を伝わるのを感じた。
凛が俺を抱きしめる。
そんな優しさも凛が居なくなったら忘れてしまうんだ。
「なんで…なんで俺のことなんか気にかけてんだよ…。やり直すチャンスならその時行けよッ」
「俺は、この1年間待って良かった。またお前とやり直せたんだ、後悔なんかしてねぇ。」
「…そーやって俺を悪者にしやがって。俺も、俺も後悔なんかしねぇよ。凛、フランス行って来い。」
まだ心に決心がついたわけではなかった。
けど俺の身勝手な理由で凛のチャンスを無駄にすることこそ後悔しそうだったから。
これは俺が決める事じゃない。
俺が決めるべきはついて行くかどうかだ。
「ゆっくりでいい。言うのが遅れて悪かった。けど、あっちに行ったからって俺が潔以外を選ぶなんか思うな。」
凛はあの日よりもずっとずっと強く俺を抱きしめてくれた。
涙で顔がぐちゃぐちゃになる。
玲王はあの日変わってしまった凪を見て、こんな気持ちだったのだろうか。
寂しくて、でも何もできなくて、自分はどうすれば良かったのか、誰も居ない病室で凪の上で泣き続けたのか。
「凛、話そう。」
「潔、今日は色々話しただろ。返事は急がなくてもいいから今日はもう…」
「決めた。1番後悔がない答えを。時間がないなら早く自分に整理をさせる。ちょっとでも長く凛との時間を作りたい。」
夜、眠れなくてリビングに行くと凛がソファに座っていた。
テレビは音を小さくしており冴の試合映像を見ている。
凛に話しかけてこの会話をした時、凛はやけに落ち着いていた。
俺が答えを言おうとするとそれを止めてテレビを消す。
そして飛行機の出発時間を書いた紙を渡すと共に真っ白な封筒を寄越した。
「これは俺が居なくなってから好きなタイミングで開けろ。それでお前の手で書くんだ。俺があっちに行って気変わりしねぇ代わりにお前も約束しろ。」
凛は細い小指を俺に突き出した。
訳もわからぬまま封筒を左手に持ち替えて右手の小指を突き出す。
小指を絡めて凛が微笑んだ。
「お前は俺だけ見てろ。そんで俺が帰ってきた時、必ずはいって答えろ。」
左手で凛が頬を掴んできた。
そしてまた優しい顔で微笑んで俺を招くように両手を広げる。
迷いもせずに俺は凛のもとへ飛び込んだ。
「俺フランスには行かない。凛が帰って来た時の為に俺もサッカー頑張る。 」
「うん。」
凛は俺の頭を何度も撫でて俺の言葉一つ一つに返事をしてくる。
「お前がプロになって帰って来た時に練習相手にはなるくらいまで頑張るから。だから絶対帰って来いよ。もうどこにも行くなよッ!」
「あぁ、もうお前が振ろうと絶対離れねぇ。兄貴なんかに負けねぇから。」
時計の音が鳴り響くリビング。
ソファの上で俺と凛はいつの間にか眠りについていた。
玲王を言い訳にして逃げていた弱い俺。
冴にもう一度喰らい付こうとフランスに行く凛。
あの頃の温度を少しずつ取り戻してきていた。
確かな温もりと確かな幸せを噛み締めて。
「凛…。」
この決断が正しかったかどうかなんてやってみなきゃ分からない。
ここまで読んで下さりありがとうございました!!😭
物語も最終章に近づいてきましたね。
初心者のど素人が書いている為、話の内容が噛み合っていない所や忘れてしまっている要素もあったはずです😥
凛と潔が前の関係を取り戻す中、玲王と凪について疑問を持つ方もいらっしゃると思います。
凪玲王の話はまた別で作ろうと思います。
凪が通り魔に襲われている時、玲王が何をしていたのか。
行方不明になっていた時、玲王はどこにいたのか。
また凪が回復してもう一度やり直すまでの物語を楽しんでいただければと思います。
引き続き私、いち。を宜しくお願いします🙇