10.色づいていく毎日
「おはよ、凛。」
「早くねぇか…まだ7時だぞ。」
「なんか眠れなくて笑」
アラームで目が覚めてリビングに行くとすでに潔がソファにいた。
毛布にくるまってテレビもつけていない。
「不安か…?」
キッチンに向かって棚からコップを出す。
潔が「俺のも作って〜」とこちらを見ていたずらそうにニヤける。
「不安じゃないって言えば嘘になるかも。けど楽しみなんだよ。」
コーヒーの粉を掬いながら潔にキレてるような口調で反発してみせる。
「楽しみって俺が行くことがか??」
「まさか笑帰ってきた時、今よりずっと大人びてるんだよね。年下のくせに〜。」
潔はどうやらテンションが高い。
お湯を注ぐと二つのコップを持って潔の横に座った。
潔はコップには手をつけずに横に座った俺の肩に頭を乗せた。
「好きだよ、凛。」
「知ってる。」
時計の進む音だけがこの部屋の沈黙を落ち着かせている。
もうすぐ年明けだ。
俺は丁度1月の31日。年の終わりに冴とフランスに行く。
それは潔にも伝えてあることだ。
言わなきゃならないことがあった。
でもそれは帰ってきてから俺がもっと良い男になった時。潔を守る覚悟ができた時に言う。
冴も抜かして俺が潔を守る。
「明日だな、出発の日。」
キャリーケースにあらかじめまとめていた荷物を詰めているとソファの背中から顔を覗かせる潔と目が合った。
「ほんとに行っちゃうんだよね〜。」
潔が寂しそうな顔をして目を閉じる。
俺は手を止めて潔の元へ行くと頭を撫でた。
「俺だっておんなじこと考えてる。」
「やっぱり〜??笑」
「お前ッ💢」
潔は俺を真っ直ぐに見つめてくる。
どうにも怒る気になれずに手を頬に添えた。
住み慣れた家のリビングで朝の光に照らされる。
潔の顔を真っ直ぐに見つめ返すと潔が笑った。
「夜の集まり、玲王がレストラン予約してくれてるって!予約時間が7時だから40分くらいには出よっか。」
「御影が?凪はどうすんだよ。」
キャリーケースを玄関に引きづりながら背中でそう聞く。
「顔出せたら出すらしい。場所だけ提供って感じかな。凪と一緒に居たいんだと思う。」
俯く潔の手を取った。
「外歩こう。世一。」
体が暑くなった。
このまま溶けてしまいそうなほど潔の驚いた顔が痛い。
「なんだよ。別に初めてじゃねぇだろ。」
「ふふっ笑行こう!待って、今渡すから 」
潔は俺の手からするりと抜けると部屋の奥に行き紙袋を手に持ってきた。
俺の前に立つと満足そうに笑ってそれを差し伸べる。
俺はゆっくりと受け取り中身のものを手に取った。
中には深い青色のマフラーが入っていた。
「フランスの気温とかあんまり分かってないんだけど寒いかなって勝手に想像したんだ笑」
「…。」
冴の顔が言葉が動きが頭に浮かんだ。
俺の人生を狂わせた本人にやり返せるチャンスを手に入れた。
初めは潔なんてどうでもよかったんだ。
冴が気になっていることを知って近づいた。
案外簡単に落とせて付き合えた。
これでまた冴に勝てたとばかり思ってた。
この無邪気な笑顔に、何気ない優しさに、俺はいつのまにか本当に落とされていた。
俺は、俺たちは潔に負けたんだ。
「返すから。帰国したら倍にして返す。」
「え。?」
「潔、見てろ。俺が冴に勝つ瞬間を、世界に認められる瞬間を。」
「…うん。ぜってぇ負けんなよ。」
力強く潔が頷いてくれた。
今なら勝てそうな気がする。それくらい俺にとって嬉しかったんだろうか。
外に出て行き先も決めずに2人で歩く。
みんなで凛を送る会をレストランでした後、俺は冴とホテルに泊まる予定だ。
だからキャリーケースもパスポートも全て持っていく。
ホテルから直接空港にいく。
だから本当にこれで最後なんだ。
俺と潔が手を繋いで笑って過ごせるのも。
「凛、ありがとう。弱い俺を救ってくれて。」
「…行きたくなくなるだろ。やめろ。」
自分らしくない。口元が緩んでしまう。
この手を離す事ができなくなってしまう。
俺は今、世界一幸せなんじゃないかと思う。
真っ青だった世界が色づいていく。
俺は潔の手を強く握り返して反対側の手でそっとマフラーに触れた。
深い青をしたマフラーも手放さないように強く握りしめた。
コメント
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神作すぎる…凛潔あんま見ないけどこれはめっちゃ好きで見てしまう!投稿おつかれさまです!!