こんばんは、夜飴です。
今回は木兎さんがあかーしのあとを追わなかったら…というif話で、前回までで一応完結なので見なくてもいいですが、自己満で書いてみたのでよければどうぞ。
ねぇあかーし、どうしたらいいと思う?
みんな、あかーしのこと口を揃えてもういないよって言うんだけど、ずっと俺の隣にいるのに、変だよなあ。
……あかーし。
居るよね、?
俺の隣に、いつも居てくれてるよね?
なら、なんで…?
トス、上げてよ。
せっかく元気になったのに。
俺、お前がいなきゃやだよ。
お前以外の奴のトス、もう打っても楽しくないんだ。
だから、お願いだよ。
もう1回だけ、俺にトス上げてほしい。
でも、どんなに言ってもお前は俺をただ静かに見ているだけ。
俺に、「逃げないでください」って、そんなことを言い続ける。
なんで?
赤葦、お前までそんなこと言わないで。
俺にはもう、お前しかいないのに、そのトスが打てない。
調子がどんどん落ちていくのが自分でもわかる。
どうしようもなくむしゃくしゃして、チームメイトに当たり散らした。
それでも俺にトスを上げてくれるセッターは親切で、相手が俺でさえなければとてもいい選手なのにと、チームメイトが話しているのを聞いた。
それなのに、俺はそれに気付けない。
練習試合で、スパイクの助走が一歩も、踏み出せなくなった。
バレーに身が入らなくなり、レギュラーから外されて時間が増えた分、俺は赤葦の痕跡を探すことにのめり込んだ。
時間が経つほど薄れていくそれをかき集めて、元に戻して、ずっと手元に置いておかなくちゃ。
そうでないと、赤葦がいなくなってしまうと思った。
俺の隣にいて、みんなには見えてなくて、でもいつも通りの赤葦。
ちょっとしたことでその精神があっけなく崩れてしまうことを俺だけが知っていた。
季節が一つ変わる。
誰も、赤葦の話をしなくなっていく。
日々が、色褪せていくようだった。
隣で色を保ち続けているのは赤葦だけで、それ以外の全ては一切の感情の揺らぎすら俺にはもたらさなくなっていく。
流石に様子がおかしいと病院に連れて行かれ、一旦は無痛症と診断された。
実際、熱湯に指を突っ込んでも痛くなかったし、熱くすらなかった。
でも、いろんなものの味がわからなくなって、人の声を聞き分けられなくなって、誰の顔なのかわからなくなって、学校へ行くことも、歩き方も忘れてしまった。
何も食べずにベッドの中でぼんやりとしながら、隣で眠る赤葦にそっと笑いかける。
「──木兎さん」
声がした。
ずっとずっと、聴きたかった声がした。
涙が出た。
でも、世界は俺に幸せをくれない。
「……──」
分からない。
言おうとした言葉が、呼ぼうとした名前が、空気に溶けてなくなってしまう。
「あ…ぁ、っ…ああぁ…!」
口から出るのは掠れて言葉にならない吐息のような音と、押し寄せるように逆流した胃液だけ。
ねぇ。
あかあし。
赤葦。
どうして?
そう思っている間に、視界がぼんやりと霞んでいく。
大好きな、大好きな顔が、見えなくなっていく。
ねぇ、待って。
置いていかないで。
お願いだから。
なんでもするよ。
だから……俺をひとりにしないで…っ。
ゆっくりと、その口が開く。
迷いながら、その手が俺に触れる。
「……じゃあ、俺と一緒に来ますか、?」
赤葦の手は、俺の肩を通り抜けた。
ピピピ、という電子音で目が覚める。
色のない部屋。
色のない世界。
色のない、俺。
「……またあの夢…」
どこか懐かしい、けれどすぐに消えていってしまう夢の残滓を、俺は追いかけない。
“俺”はずっとそこにいるから。
代わりに生まれた色のない俺を、誰も不審がらない。
寂しい、とか思うこともなく、無機質に日々を過ごし続ける。
「…あかーし……あかあし…赤葦。うん、覚えてる。だいじょーぶ」
毎朝、その名前を確認する。
忘れないようにっていうのもあるけど、やっぱり一番は、名前を呼べばお前が来てくれるからだと思う。
『おはようございます、木兎さん』
その声は空気に溶けて俺の耳には届かないし、触れた時の体温でさえ俺にはもうわからない。
「お!おはよ、あかーし!!」
俺の隣にその姿はもうないけれど、でも確かにそこにいる。
俺の大事な、大事な奴。
もう何も感じられなくなった俺にある、唯一の「俺以外」。
姿が見えなくても、声が聞こえなくても、触れることさえできなかったとしても、「赤葦京治」は俺の隣に存在し続ける。
今でも、吸い込まれるような綺麗な瞳が、聞くとどこか安心する落ち着いた声音が、触れる度顔が熱くなる優しい体温が、俺の中に残ってる。
だから、大丈夫。
まだ大丈夫。
俺はまだできる。
そう思ってきた。
だけど、ねぇ、あかあし。
俺のこと、もう誰も見てくれないよ。
ねぇ、こんなことして、お前を待たせて、何のためになるの。
教えて。
あかあし、俺はどうしたらいい?
苦しい。
どんどんみんなと息が合わなくなって、俺だけ、ずっとお前が死んだところで時間が止まっていると知っても、まだ前には進めない。
あかあし、もう嫌だよ。
お前が俺を透明にしたから、俺は死ねなくなっちゃったじゃないか。
どんなに死を切望したところで、絶対最後にはお前の影が邪魔をする。
俺はお前の色にあっけなく染まってしまうから。
「死なないでください」って、俺をここに縛り付けるから。
うーん…「切望」って使い方…合ってる?
まあ、あれからバレーもできなくなってその分勉強したから全部合ってるんだけど。
「……あかーし」
小さく呟いた名前が、俺を縛り付ける大きな鎖になる。
『…どうしたんですか?木兎さん』
その優しい声を思い出すと、すごく死にたくなる。
同じところに行きたくなる。
「ねえ、もう終わりにしようよ」
ふっと呟いて、あかあしがびっくりしたような気がしたけど、でもその気配にさえももう死の臭いは染み付いている。
『……何言ってるんすかアンタ…俺が死んだからって、木兎さんまで引っ張られることないじゃないですか…!!』
存在自体が、俺を”そっち”に引っ張る。
「だって、お前のこといつまでも待たせんの嫌だし。俺がもうそっちに行きたいんだよ」
なんで、とあかあしの声が空気に溶ける。
『なんで、だって、それじゃ俺、何のためにっ…!』
でも、”お前”は俺の知っている”赤葦京治”ではないから。
「ごめんねあかーし、ごめん…」
綺麗な目に涙が滲んで、ゆっくりと落ちていく。
「俺は俺の赤葦に逢いに行く。だから、ここには居られない。でも、すごく感謝してる。今までありがとう」
引き留められても、俺はもうここに戻ることはない。
『……そうですか。木兎さん、あっちの俺によろしくお願いします』
どこか吹っ切れたような顔で、俺の知らない赤葦が微笑む。
「…うん」
目の前が白く霞んでいく。
赤葦の顔が見えなくなっていく。
でも不思議と怖くはなくて、むしろ柔らかくて温かい空気が俺の周りを包んでいた。
しばらくして何も感じなくなって、世界が真っ白になった。
「……木兎さん、起きてください?ねえちょっと、もう29回目なんですけど!?」
怒ってそうで、怒ってない。
俺のことになると一つも警戒しなくなるこいつが、誰よりも愛おしい。
「う〜ん……あかーしぃ〜…あと5時間……」
優しく触れる体温が気持ちよくて、ついそんなことを口走ってしまう。
「駄目です!!朝練遅れますよ!?」
朝練。
その単語に飛び起きると、朝から不謹慎すぎるほどに邪悪としか言いようのない笑みを浮かべて赤葦は俺を見ていた。
「残念、ないです。……って、え、ちょっと、なんで泣いてるんですか!?ちょ、え、ごめんなさいって!謝りますから!」
あまりにもいつも通り。
やっぱり俺の居場所はこいつの隣なんだなと再認識させられる。
「違う、違うあかーし、…俺が弱かったから、お前にたくさん辛い思いさせた……!ごめんな…!」
赤葦は少しの間きょとんとして俺を見つめて、やがてふっと笑った。
「木兎さんは俺のもので、俺は木兎さんのものなんです。だからいいじゃないですか」
生きているだけで俺のためになってます、とその後に続けて、赤葦は優しく柔らかく、恋と愛の中間みたいに繊細に俺を抱きしめた。
このシリーズはこれで完結になります、ありがとうございました。
よければ、♡、フォロー、コメントよろしくお願いします。
ちょっとずつ投稿頻度戻していこうと思うのでこれからも見てくれると嬉しいです。
それじゃ、おやすみなさい。良い夢を。
コメント
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ええ!! 最初愛重めって感じる!! すごいすき!!