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──朝食には、フレンチトーストを焼いて、熱い紅茶と一緒に味わった。
「美味しい……先生は、料理もだけれど、デザートも出来て、シェフにでもなれそうですね」
粉糖が白く振りかけられた柔らかなトーストに、メープルシロップをたっぷりと垂らして口に頬ばる。
「シェフに? 私がですか?」
想像がつかないといった顔つきで、メガネを指先で軽く押し上げて、
「私は、自分のために料理を上手く作りたかっただけなので、今まで誰にも手料理を食べさせたようなことはなくて」
彼は、そう口にすると、
「だから、人に美味しいと言ってもらう幸せも、知りませんでした。食事を共にして、『美味しい』と伝えてもらうことは、それだけで幸せなんですね…」
ティーカップを手にして、紅茶を一口含んだ。
自分も紅茶を飲んで「はい……」とだけ頷くと、
「……もともと私の料理は、幼い時分に父に教わったものでした。父は母の代わりに料理の手ほどきをしてくれて、出来上がりを待つ私にアレンジの仕方など色々と教えてくれました……。
自分の料理がこんなにも喜んでもらえるとわかっていたら、一度くらいは、父にも私の作ったものを食べてほしかった……」
そこまで話して、短く息をつくと、
「……一つ、お願いがあるのですが、」
ふと彼が切り出した。
「……今度、父のところへ私と行ってくれませんか?」
カチャリとカップをソーサーに置いて言う彼に、
「お父様のところへ?」
と、訊き返した。
「ええ…そろそろ月命日になるので」
「そうなんですね。私も、お父様にお会いしたいです」
笑みを作って頷いて返すと、
「ありがとう…そんな風に言ってもらえて、嬉しいですよ…」
カップから紅茶の一口を飲んで、ふっと柔らかに表情を崩すと、彼は優しげに微笑んだ……。