◇
「“カワイソウ”ッテ……ナニ、ナンデ…?」
まるで自分じゃない誰かが乗り移ったみたいな感覚。
頭の中に、どんどんモヤが立ち籠めて、判断があやふやになる。
あれ…コレは誰の言葉…?誰って何…?
俺の言葉でしょう…俺…?
俺は……
「あーッ!!みどりいたァァァァアッ!!!」
「ッ!?」
ラダオクンの突進をくらって、ドーンっと二人で後ろに転がる。
背中とかぶつけた手足がジンジンするけど、お陰で頭のモヤが晴れた。
「ラダオクン、ナンデココニ…?」
「こっちのセリフ!あの部屋がある建物からは出ちゃダメって言ったよねぇ!?」
確かに、あそこで暮らすようになってから“館の外に出てはいけない”というルールをラダオクンから設けられた。
でも、今回はルールがどうこうと言っていられるような状況じゃなかった。
「イ、犬ガ…怪我シテタカラ…!」
「だからってルールを破っていい理由にはならないでしょ!言い訳やめてくれる!?ダメなものはダメなの!!」
頭ごなしに否定されて流石にカチンときた。
最初から話を聞く気も無いのかよ!!
そんなに外に出したく無いなら鍵の一つや二つをそっちが勝手やっとけばいいじゃん。
鎖で繋ぐでもなんでもしておけばいい。
「…らだおくんは、楽でいいよね……」
「…!?」
「俺が何も知らないと思った!?何も知らずに、あの部屋でぼぉっとしてるだけだとでも!?全部わかってるもん!!わかっててあの部屋にいるんじゃん!!寂しくても!誰も来なくても!!一人でも!!」
ハァハァと荒い息を吐きながら呆気に取られているラダオクンの顔を睨みつける。
ここまで頑固だなんて思ってなかった。
怒りのあまり目の前がパチパチとスパークしているような気さえする。
「…モウ、イイ!!ラダオクン ノ馬鹿!!」
「みど…!」
伸ばされた手を振り払って部屋を飛び出した。
来た道をどんどん戻っていると、何だかラダオクンとの関係もどんどん戻っていくような感覚になる。
初めて好きになった相手。
あんな怒鳴り方して、泣いて喚くなんて…
「嫌ワレチャウ…」
でも知って欲しかった。
誰かが訪ねてくれるまで、俺はこの部屋でずっと一人だってこと。
今日は来るのかと待ち続けて、誰も来なかった日はどんな気持ちで過ごしてるか。
「…グスッ、グスッ…スンッ…」
そういえば、薬品棚のガラス部分が割れて中身がいくつか地面に落ちてしまっている。
その中に、この前の桃色の液体が入った小瓶もあった。
「…ラダオ」
こんなもの作るくらい寂しかったんだよ。
好きになって、無理だってわかって、ここから出られないから、なす術もなくて…
「惚レ薬…馬鹿ダナァ……」
こんなもので心が手に入るわけがないのに。
それでも、何かに縋りたかった。
コンコン
「みどり…俺の話、聞いてほしい…」
「…………シラナイ」
「…じゃあここで勝手に話す」
「……」
扉を挟んだ向かい側に、ストンとラダオクンが座り込んだのがわかった。
…これじゃあ聞くしかないじゃん。
「俺さ、色々あって…みどりは魔法が使えるでしょ?普段使ってる、資料とか浮かせてるやつ…」
あれって誰にでも出来るわけじゃないんだよね、と言われてビックリした。
あんなに簡単に使えるのに、他のみんなは使えない…?
「その、みどり覚えてないと思うけど、前に一回暴走して…その時、いろいろすごくて」
たぶん、この“すごい”は褒め言葉じゃない。
暴走…そんなことあったっけ……?
わからない…ラダオクンの言う通り、俺はそんなこと覚えてない。
「だから、みどりが周りに被害を与えないように、暴走の原因とか、食い止める方法とか…そういうのがわかってからにしようって…」
「………王様ガ、ソウイッタノ…?」
王様は、国民を第一に考えないといけない。
それなら俺がここにいなきゃいけない理由がハッキリとする。
「あー…その、そのことなんだけど…」
「……?」
急に歯切れが悪くなるラダオクンに違和感を覚えて、閉じていた扉をそっと開く。
「わっ…!?」
背もたれがなくなってひっくり返ったラダオクンの顔をジッと見つめた。
王様…館……
めっぽう強い…負け知らずの……
「ラダオクン…王様……?」
ゔっ…とラダオクンは小さく唸ってキョロキョロと目を泳がせた。
半分は直感のようなものだったけど、どうやらラダオクンが王様であっているらしい。
「ナンデ、秘密ニシタノ…」
「……俺…王様じゃないもん」
ムスッと頬を膨らませて子供のように口をへの字に曲げたラダオクンの言葉にポカンとする。
ラダオクン…まさか……まさかだよね?
「王様ッテ呼バレルノガ嫌ダカラ…ジャナイ、ヨネ…?」
「……チ…チガウシ」
「エェ…」
嘘でしょ…ラダオクン…色々、無理があるって…
俺の好きな人は、子供みたいな王様でした。
◇
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