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◇
「みどり!そっちのテーブルに皿の準備して!あ、サラダも運んで!」
あれからしばらく。
俺がいた別館の一番奥の部屋から、この本館へ生活拠点を引っ越すことになった。
あそこはガラスの破片とかでグチャグチャになってたし、何より俺が寂しいから。
「ウン」
暴走が起こらないように、魔法は使わないでラダオクン達と生活を共にしている。
お陰で寂しくないし、みんなと仲良くなれて毎日が楽しい。
「ん、どりみー…おはよ…」
「キョーサン、オハヨォ」
別館にいた時は会ったことなかった、きょーさんこと金豚きょーとも出会えた。
レウさんやコンちゃんも優しくしてくれる。
こんな時間が続いてくれるなら、以前のように魔法が使えなくとも不満はない。
「みどり、今日は俺と街に出かけようか」
「!!」
ラダオクンからのお誘いに、両手を上げて全力で喜びを表現する。
嬉しい、久しぶりだ…!
ラダオクンは最近忙しそうだったから…
「みっどぉ、嬉しそうだね」
「マァネ」
「久しぶりだから楽しみなんじゃない?」
「マァネ」
「なんや、デレ期か?」
「マァネ」
「そんなに楽しみだったの〜?うれしぃ〜」
「…」
きゃぴるりんっと両手を組み合わせてポーズを決めるラダオクンを無視して目玉焼きを口に詰める。
ムグムグと咀嚼していると、なんで無視した?とラダオクンが詰め寄ってきた。
顔、が…近い……!?
「ング…!?汚イ、近寄ルナ……!」
思わず愛想のない言葉を投げつけて距離を取ると、ラダオクンはわかりやすくズーンと落ち込んだ。
「汚い…?汚いて…ひどぉい……」
「…ゴチソーサマ」
これ以上グダグダ言われる前に、ひと足先に食事を終えて部屋に戻ることにした。
シクシク啜り泣く声が聞こえたけど、たぶん演技だから無視しておいた。
パタン
新しく割り振られた部屋はラダオクンの部屋の隣。
大きな出窓のある部屋。
「今日ハ…」
特殊研究開発課をやっていた時の功績がよかったのか、はたまた今後も近い場所から監視するためなのか、俺はラダオクンの側近である“運営”に加入することになった。
「ンデ、他ノヤツラハ今日モマタ荒レテイル、ト…」
ぽっと出のクソガキが急に運営になったことも、ラダオクン達に囲われてることも、昔からラダオクンの近くで努力を重ねていた人達からすると不満でしかないのだ。
「…イテ」
パーカーの裾をたくし上げて、ズキズキと痛む脇腹の青痣を確認する。
本当は他の場所にもまだいくつかあるけど、ここが一番痛いからここだけでいいや。
痛いな…薬何かあったかな。
「ア、アッタ…」
薬品棚から塗り薬を取り出して患部に塗っておいた。
コンちゃんが作る薬よりは効き目が悪いけど、医務室に行って大事にされるのも面倒。
それに…みんなが考えてる不満は正当なものだから。
日々の努力を横から奪われて笑ってられる人なんていない。
「…………準備、シヨウ」
元々いた場所で貯めてた分を換金した手持ちのお金。
ほんの少ししか無いけど、これでいつも優しくしてくれるみんなに何かプレゼントができたらいいな。
「みどりー?そろそろ行くよー!!」
ガチャン
本館の大きな玄関扉を閉めると、一気に賑やかな声が耳に届いた。
「やってんね〜」
「ナニヲ…?」
「不定期で模擬店祭りしてんの、ら民考案…いいでしょ」
ドヤ顔で嬉しそうに話しているラダオクンを見ると、ますます怪我のことは隠さないといけないなって気持ちになる。
「ラダオクンハ、ラ民ガ大好キ ダネ…」
「えぇー?まぁまぁまぁ…」
あ、あっちのお菓子見に行こ!というラダオクンの声について行くと、美味しそうなクッキーの中に青いクッキーが混じっていた。
チョコで“^ら^”という顔が描かれている。
ラダオクンの顔がついてる…
このクッキーかわいいな。
「どれほしーの?」
「ェ、イヤ…」
「みーどり、どれ?」
「……コ、コレ」
圧に押されて恐る恐る指差すと、ラダオクンがお財布からお金を取り出した。
「ラダオクン!?俺、自分ノ オ金アル…!」
「いーのいーの…はい、どーぞ」
「…アリガトウ」
本館に帰って部屋に戻ったら大事に食べよ…
嬉しくて口元を緩めながら鞄に仕舞い込む。
ラダオクンが嬉しそうに小さく笑ってた。
「…ァ、ラダオクン」
「なぁに?」
「俺、買イ物シテクル…!」
プレゼントを買いたくて来たんだった…!
ラダオクン達にはサプライズで渡したい。
ビックリして、その後にっこり笑って“ありがとう”って名前を呼んでくれるのが目標。
「俺もついてくよ」
「ダメ!待ッテテ…一時間後ニ待チ合ワセ!!」
ジャアネ!と財布を片手に走って逃げた。
ドン
「ワ…ゴ、ゴメンナサイ…」
「あ、クソミドリだ」
「うわ、らっだぁ様に取り入って運営に入れてもらったクソミドリじゃん」
ぶつかった相手の馬鹿にしたような言葉にムッとして見上げる。
「アッ…」
「何見てんの?」
「ムカつくわ〜」
この人達は、俺のこと殴ってくる人だ。
謝罪もそこそこに踵を返すけれど、そう簡単に見逃してくれるワケもなく…
「イッ…」
腕を掴まれたまま、ズルズルと人通りの少ない方へ引きずられて行く。
お祭り騒ぎの状態のせいで、ただ手を引いて歩いてるようにしか見えないのが良くなかった。
「ラダオ…!」
「迷惑かけんの?」
助けなんて呼べるわけがなかった。
ドサッと地面に投げ捨てられて、カバンの中でクッキーの包装がグシャリと音を立てたのが聞こえた。
◇