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テーブルに置かれていた紙、
1枚を持って帰った。
そこには、東雲さんたちに何があったのかが書かれていた。
美雪さんの身体から、危険な薬物が検出されたそうで、そのせいで美雪さんが東雲光輝さんを殺したのだろう。そしてその後、美雪さんは自殺したのだろう、
と書かれていた。
あの男が、美雪さんに何かをしていたんだ。
!
そうだ、
美雪さんを連れ帰ったのは僕だった。
なら、
僕のせいだ、
『くぅっ……ううっ…ああっ…』
涙が溢れる。
悔しい。
昨日、僕は強くなれたと思っていた。
でも、違った。
僕は強くなんてなっていなかった。
弱いままだ。
もう嫌だ。
辛い。
苦しい。
逃げたい。
もう、疲れた。
『甘ちゃん、』
琥珀さんが、僕の身体を引いてくる。
僕は、琥珀さんの太ももへ倒れる。
今は、そんな気分じゃない。
『甘ちゃん、よく頑張ったね、』
!
それは、
『違う。僕は頑張れなかった。守れなかった。弱いから、守りきれなかった。』
僕は強くなんてないんだ。
『余計なことしかできなくて、結果がこれだ…くそぉっ……ちくしょう…』
後悔しかなかった。
なんであの時…
『甘ちゃんは弱くなんてないと思うよ?』
琥珀さんは優しくしてくれた。
でも、
優しさだけでは強くなんてなれない。
逃げることはしたくない。
それが、事実だから、
変えられないんだ。
『弱いよ、今日のでよくわかった。全然はがたたなかった。浮かれてたんだろうな。』
『そんなことはないよ。琥珀はもっと、何もできなかったから。昨日、あの人に言われてわかった。ううん、知らないふりをしてだだけでわかってたの。琥珀が足手まといでしかないって、』
『そんなことはない!僕は琥珀さんがいてくれるから戦えた。助けたいって、守りたいって思えたんだ。死のうとした時も、琥珀さんのおかげで今を生きれているんだ。僕は、たくさん、琥珀さんに救われたんだ。』
琥珀さんが僕を救ってくれた。
そんな琥珀さんの優しさが羨ましく思っていた。
『でも、甘ちゃんは悪い人に立ち向かえるでしょ?琥珀には、できないことだよ、』
『…っ!』
『甘ちゃんはね、ずっと誰かを救いたいと思っているし、ちゃんと行動までできる強い人なんだよ?』
そういうものなんじゃないのか?
行動することは勇気がいることだ。だけど、見捨てるのにも勇気がいる。
『でも、甘ちゃんは救えなかった時、全て自分のせいだと思っちゃうみたい。』
『それは、だいたい僕のせいだからだよ。』
だいたい僕のせいだ。
昨日のも今日のも、僕のせいだ。
『違うよ、甘ちゃんが救わなきゃいけなかったわけじゃないでしょ?周りにも、助けられたかもしれないのに、行動できなかった人がいる。その人たちは?もっと悪くない?』
『え、』
そこまで見ていなかった。
そう、なのかな…
『でも、甘ちゃんは見捨てなかった。自分が弱いと思っても、誰1人見捨てなかった。なのに甘ちゃんは優しい子だから、全てを1人で抱え込みすぎちゃうんだよ。でも、それは、自分が辛いだけで、損をするだけなんだよ?』
・・・
そうなのかな。
『そんな優しい子には、ご褒美をあげないとね?』
へ?
琥珀さんが僕の頭を優しく撫でてくれる。
『よく、頑張ったね。辛い時も、苦しい時も、諦めず立ち向かってえらいよ。そんな子の彼女になれて、守ってもらえて嬉しいよ。いつも助けてくれて、優しくしてくれて、隣にいてくれて、本当にありがとう。』
!
『くぅっ!』
『泣いてもいいんだよ、辛かったね、苦しかったね。辛いことを愚痴っても、琥珀にちょっと悪いことをしてもいいんだよ?いっぱい頑張ったから、いっぱいわがままになってもいいんだよ?琥珀に甘えてもいいんだよ。ね?』
『ううっ!ああっ!』
『琥珀になら、我慢しないで?何も気にせず、やりたいようにして?』
『ああぁぁぁぁぁぁっ!』
僕は泣いた。
彼女の前で大泣きした。
琥珀さんの優しさに安心して、
辛かった全てを出し切るように、
『誰にも甘えられず、辛いことを言えず、心に溜め込んでしまって、辛かったね。でもね、甘ちゃんはいい子なんだよ、』
僕は琥珀さんに抱きついて泣いた。
ずっと、泣き続けていた。
こんなに安心できたのは初めてだったかもしれない。
僕を大事に思ってくれる、琥珀さん。
その優しさに、甘えてしまった。
-甘ちゃんが抱きついてきた。
こんな甘ちゃんは初めて見た。
本当に辛かったんだろう。
琥珀は近くで見てきたからわかる。
琥珀のために、自分を犠牲にしていた。
琥珀が傷つくはずだったことも全て、甘ちゃんが背負ってしまった。
なのに、
何もしてあげられなかった。
私は、見ていることしかできなくて、私のわがままばかりして、
もっと迷惑をかけちゃった。
だから、辛かったはずだ。
記憶になくても、疲れてはいたはず。
記憶がなかったからこそ辛かったこともあったはず。
甘ちゃんは本当にいい子なんだ、
私はそんな甘ちゃんのことが、
『大好きだよ。』
甘ちゃんはいつのまにか眠ってしまったみたい。
琥珀の胸で、心地良さそうに眠っている。
起きている時は男らしいのに、今は特に、子供みたいな寝顔をしている。
甘ちゃんの目から溢れている涙を、指で拭く。
『おやすみ、甘ちゃん、』ー
第1章,END