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夜の海は静かだった。月の光が波に揺られ、二人の影を薄く照らす。
「ねえ……もう、全部手放しちゃわない?」
香山睡の囁きは、まるで水に溶けるように儚かった。
岳山優は波打ち際に座り込み、濡れた足を見つめる。冷たい海水が膝を撫でるたび、少しずつ心まで浸食されていくようだった。
「……いいの? そんなこと言っちゃって」
「いいわよ。もう、疲れちゃったもの」
睡は笑った。その笑顔は、あまりにも穏やかで、まるで何かを諦めたようで。
優はそっと睡の手を握る。指先が震えているのは、どちらのせいだろう。
「じゃあさ……一緒に沈む?」
冗談めかして言ったつもりだった。けれど、睡は否定しなかった。
代わりに、優の手を強く握り返した。
「ええ。あなたとなら、どこまでも」
ざぶん、と波が打ち寄せる。
二人の足元から、ゆっくりと海に溶けるように、世界が沈んでいく気がした。