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タヒネタか…大好きだけど切なくなるな、そこがまたいいけど
・敦君が死のうとしてます
・太敦
・首絞めたりなんだり少々キツイ描写あり
・ハッピーエンドとバットエンドどっちも書くつもり
・太宰side
以上大丈夫な方のみ、お進みください!
敦「太宰さん、僕の首を絞めて、殺してください」
間が5秒と空く。その言葉を理解するのには少々時間を要した。
太「……はい?」
腑抜けた声が出るのも仕方がないだろう。生きることに執着していたはずの彼が、そんなことを口走ったのだから。
否、口走ったと言うより、私にとって衝撃的なことを言われたものだから、そう感じてしまっただけだろう。
敦「太宰さん、お願いです」
いつも通りの任務帰り、否、少し遅くなってしまったけれど、それ以外何も変わらない、いつも通りの帰り道だ。
山の端に夕日が沈んでいき、オレンジがかった雲を侵食するように暗く深い夜がそこまで迫っていた。
何秒か立って焦りを落ち着かせては問う。
太「どうして…?」
小さく放った一言は、質問をするには何か物足りないだろう。何に対しての質問なのか、明確ではなかったからだ。
ただ、今、何か言葉を返すとしても、放つことができる言葉が、これしか無かった。
敦「太宰さんにしては質素な言葉ですね」
太「あぁ、こんなに驚いたのは久しぶりだよ」
私がいつも通り腑抜けた返事をすると、
敦「そうなんですか」
と愛想良く返事をするものだから、さっきの発言をしていた人とは、まるで思えなかった。
太「敦くんは、穏やかな顔で物騒なことを言うねえ」
敦「太宰さんには敵いませんよ」
…そう笑う敦くんはいつも通り。
恐ろしいほどにいつも通りだ。
太「それで、聞いてもいいかい?」
敦「はい、なんでも」
太「なんで私に首を絞めて欲しいの…?」
そう問う声は自身でも驚く程、低く優しい声だったように思う。
それに答えるように、敦くんも優しい声で返事をしてくれた。
敦「何度も、ひとりで死のうと試みましたよ。でも、僕の中に居る虎がそれを邪魔するんです。苦しみから解放されようとする僕が許せないんですよ、屹度」
私はそれを聞いて納得するも、そんな理論的な理由を言われるよりも、1人は寂しい、とか、最後まで一緒に居たいとか、そう言われた方が余っ程嬉しかったな、と思う。
太「…、つまり私が首を絞めれば、君は異能を発動することなく死ねる、と。」
こくんと頷く。
太「まさか、私が拾った敦君が、自ら死を提示してくるとはねぇ」
敦「おかしな話ですよね、でも、僕を救ってくれたの、嬉しかったです。少しの間だとしても、確かに僕は光の中に居る事が出来たように思うんです。ただ、その幸福が僕にとってはとても恐ろしかった。過去の苦しさから、前を向いて歩けるほど、僕は強くなかったんです」
…そんな悲しい言葉を並べても尚、彼は笑っていた。
嗚呼そうか、彼が死のうとする理由を理解する。
…、死にたいと苦しむ人はまだ、苦しみの中でもがくのだろう。でも、死のうと決意したものは、その苦しみからぽとんと地へ落とされては、虚構の中、密かに死を望み彷徨う。
…その違いはまるで明確なような気がしてくる。
目の前に居る彼は、もう苦しんでなどいない。それが意味する事はもう分かり切っている。
太「君はもう、苦しむことを辞めたんだね。」
予想外の言葉に驚いたのだろうか、敦くんは僅かに目を大きくしてから、ふふ、と笑うと、はい、と頷いた。
敦「お願いを受けて呉れませんか?」
太「…、どうだろうね。…ただこれだけは言えるよ。これだけ自分の異能力を憎んだことは無いよ。」
笑い声を漏らす。
すみませんと言いながら少し下を向く敦くんが、自分の目に痛々しく映る。
辛い顔は、しないで欲しいと思っていた。でも、今は違う。生きる希望を失うその前に、私に辛い顔を見せてくれたら良かったのに。
自分が辛かったからか、彼に生きていて欲しいと願ったからなんて、分からない。ただ、気づいた時には彼をぎゅっと抱き締めていた。
敦「太宰、さん?」
太「…、今は何も、言わないで…、お願い」
願いを聞き入れた敦くんはそっと私に腕を回してぎゅっとしてくれた。
そんな彼の優しさが、いつかの古傷に染みた。
…、織田作。私にこの子を止める権利はないのだろう。
かつて織田作の死を止められなかったように。今の敦くんはね、とても穏やかな顔をしているんだ、生きているのに、“彼の世”に寄りかかっているみたいな。私が、此の世から足を離す切っ掛けを作ってしまえば、彼はいなくなってしまうのだろう。
手放す事が、彼のためであろうと、私は躊躇わずには居られない。
…嗚呼、織田作、彼は今、あの頃をの君と全く同じ顔をしているよ。死にゆくことを分かっている上で落ち着いた目をしている。
それがたまらなく悲しい。
少したってから彼に回していた腕を落とした。
太「…すまないね」
敦「…、良いですよ、なんか少し嬉しいです」
…彼の瞳を朝明けのようだと思っていたけれど、よく見ればそれは、夕焼けの終わりゆく直前の空の色に似ている気がした。
もう直ぐで消えてしまうような気さえする。
終わりを示す瞳だった。
敦「僕のお願い、聞いて呉れますか?」
太「……それが、君のためなら。」
息を呑んだあと、返事をする。
太「ただ、あと少し、時間を呉れないかい?」
敦「ありがとうございます。…良いですよ」
その提案は、敦くんを死から少しでも遠ざけたいと思ったのもある。
ただ、それだけじゃない。
敦くんの死を拒む、自身の最後の抵抗だった。
好評だったら続けます…