それからどしたの? (あ○びあそばせの例のアレ)
「ナオトさん。ちょっといいですか?」
「ん? どうしたんだ? メルク」
「ちょっと、こっちに来てください」
「用が済んだから、俺たちはこれから帰るところなんだが」
「き・て・く・だ・さ・い♪」
「は、はい、分かりました」
俺は洞窟の地下に戻ってきたハーフエルフたちがミノリ(吸血鬼)たちとワイワイしている隙(すき)にメルク(ハーフエルフ)と共に、とある場所に赴《おもむ》いた。
案内されたのは、メルクの家だった。
そして、俺はなぜかメルクの両親に紹介《しょうかい》されていた。
「え、えっーと、これはいったいどういうことなのでしょうか?」
植物を編《あ》んでできた座布団的なものに全員がそれぞれ正座で座っている時、俺はメルクの両親に訊《き》いてみた。
すると、メルクの両親は一度、顔を見合わせたあと、俺を見るなり、ニコニコと笑いながらこう言った。
「娘に名前を付けるだけでなく、村を一つにまとめてくださった英雄《えいゆう》のために何かしたいと思いましてな」
「その通りです。この子ももう適齢期なのですから、そろそろ結婚した方が良いかと思いまして。私なんかこの人と十八歳の時に結婚しましたしね」
「お前はあの時からずっと美しいよ」
「まあ、そんなこと言っても何も出ないわよ?」
『あはははは!』
分かったことはメルクの両親が、バカップルであるということだけだった。(『キ○ト』と『ア○ナ』より、バカップルのような気がする)
俺がメルクの方を見ると、こちらをチラチラと見ながら、頬《ほほ》を赤く染めていた。
おいおい、このままだと俺がメルクと結婚することになるんじゃないか?
これは、まずいな。俺たちは、一刻も早くアパートに帰らないといけないのに。これじゃあ、帰れないどころか、ここに住むことになるかもしれないぞ。
さーて、どうしたものかな? 俺がそう思っていると、コユリ(本物の天使)がいつのまにか俺の膝(ひざ)の上に座っていた。
「あれ? コユリ。お前、いつのまに。というか、なんで俺の居場所が分かったんだ?」
コユリ(本物の天使)は俺の手を握《にぎ》りながら、こう応《こた》えた。
「来たのは今さっきです。そして居場所が分かったのは、マスターの匂《にお》いを辿《たど》ってきたからです」
「お前は犬か!」
「いいえ、天使です」
「うん、まあ、そうなんだけど」
「何か問題でも?」
「あ、ありません」
「では、本題に入りましょう」
「それはどういう意味だ?」
「マスターは私が指示を出すまでの間、少し黙《だま》っていてください」
「えーっと、それは、いったいどういう……」
「黙っていてください」
「は、はい、分かりました」
「よろしい」
俺はコユリ(本物の天使)にあっさり言いくるめられてしまった。
まあ、コユリを怒《おこ》らせたら何をされるか分からないからな……。
俺がそんなことを考えているうちにコユリはこの場にいるハーフエルフ三人に向かって、こう言った。
「この場にいるハーフエルフ三人に一つだけ忠告しておきます。マスターは私たちのマスターです。いなくなられては困ります。ですから、間違っても人間の遺伝子が欲しいがためにマスターを結婚させるのだけはやめてくださいね?」
『…………!』
その場にいるハーフエルフ三人はコユリのその表情を見て、ゾッとした。
なぜなら、彼女の目からは自分たちを今この瞬間に殺してしまいそうな気迫(きはく)が感じられたのだから……。
そんな目をされては、さすがのハーフエルフたちも結婚を断念するしかないと悟(さと)った。
二人は苦笑(くしょう)しながら、俺たちをそこから追い出した。(メルクは両親にまだ旅を続けることを告げてから、そこを出た)
俺には何が起こったのかよく分からなかったが、コユリの行動がハーフエルフ三人の考えを改めさせたということだけは理解できた。
俺たちは、村の人たちに小袋に入れた例のドングリを十|粒《つぶ》ほどもらってから別れを言って、その場から離(はな)れた。
メルクは旅を続けることを先ほど両親に言ったため、俺たちの旅に同行することとなった。
ん? というか、俺の誕生石の力……必要なかったな。
*
アパートに戻っている途中、俺たちは密猟者《みつりょうしゃ》たちに襲《おそ》われた。
どうやら、この辺りに潜伏《せんぷく》してハーフエルフが出てくるのを待ち伏《ぶ》せていたらしい。
しかし、俺たちと出くわすなんて運のないやつらだな。えっ? なぜそう思うのかって? それは……。
「ナオトを傷つけるやつは誰であろうと排除《はいじょ》する! 覚悟しなさいよ! あんたたち!」
ミノリ(吸血鬼)がそう言うと、例のやつらの一人が。
「ふん! お前らみたいなチビに俺たちが負けるわけないだろう! バカにしてると痛い目を見るぞ?」
「へえー、そんなにあたしたちにコテンパンにされたいのね。じゃあ、望み通りにしてあげる!」
「望むところだ! 行くぞ! お前ら!」
『おーーーー!!』
そう言って、戦闘が始まったものの。
「あたしの血でできた刀《かたな》とあんたたちの武器じゃ耐久度も、切れ味も、違うのよー!」
ミノリ(吸血鬼)はそう言いながら、一人、また一人とたった一人で密猟者たちを倒《たお》していった。俺たちはその光景を見ながら、これは戦いではなく、ミノリにとってのただの準備運動だと思った。
自分の血液で作った、たった一本の刀(かたな)で身長『百三十三センチ』の幼女が、複数の大人を相手にしているのにもかかわらず、鬼神《きしん》の如(ごと)く戦っている。(鬼神というか、吸血鬼……)
さすがは吸血鬼型モンスターチルドレン|製造番号《ナンバー》 一、『強欲《ごうよく》の姫君』だなと俺は心の中で思っていた。
____しばらくして、敵を一人残らず失神させたミノリ(吸血鬼)は俺の方に走ってきた。そして、俺にこう言った。(攻撃は刀《かたな》で受け止めてから、足や頭突きで失神させていた)
「ねえ、ナオト。あたし、かなり頑張ったよね? だから、その、あの……」
ミノリ(吸血鬼)がこんな風になる時は大抵《たいてい》、俺の血を吸いたい時だということを俺が理解しているのを分かった上で、ミノリはこんなことをしてくるのだから、ミノリの性格《たち》は悪い。
「お前が俺の血を吸いたいのはよーく分かったから、せめてアパートに帰ってからにしてくれ。じゃないと、また貧血気味になっちまうかもしれないからな」
「うん! 分かった! じゃあ、その代わりにあたしを抱っこして!」
「えっ? なんでだ?」
「みんながあたしにばっかり戦わせるから疲《つか》れちゃったのよ。だから、抱っこして!」
「うーん、抱っこすると、いざという時に動けなくなるからせめて、おんぶにしてくれ」
「うん! 分かった! おんぶにする! ほら、早く早く!」
「わ、分かったから、少し落ち着けよ。まったく、お前ってやつは」
おんぶ完了。
「これでどうだ?」
「ええ! ばっちりよ! ね、ねえ、このまま血を吸ってもいい? いいよね!」
「いや、それはちょっとやめてほしいかな」
「えー! なんでー?」
その時、コユリ(本物の天使)がミノリ(吸血鬼)の背後からミノリの頭をしばいた。
「イタッ! な、何するのよ! 銀髪天使!」
「それはこちらのセリフです。マスターにおんぶしてもらえるだけでも、ありがたいというのに、そのまま血を吸いたいなどとよく言えたものですね。さすがはアホ吸血鬼です」
「じゃあ、なんでさっきは一緒に戦ってくれなかったのよ!」
「私の戦闘スタイルとあなたの戦闘スタイルは全《まった》く違います。共闘しても、うまく連携がとれません」
「そんなのやってみないと分からないでしょう!」
「分かりますよ。ああ、あなたが敵に拘束(こうそく)されている光景が目に浮かびます」
「あたしが捕(つか)まる前提!?」
「そうですけど、何か問題でも?」
「前から思ってたけど、あんたって悪魔みたいね」
「そうですか? 私よりドSな天使はいると思いますが?」
「あんたよりドSな天使がいたら、きっとびっくりするわよ」
「誰がですか?」
「ナオトに決まってるでしょう!」
「はぁ? マスターが私のことをドSだと思っているですって? 何をバカなことを」
「さっき自分で『私よりドSな天使』って言ってたわよね? 自覚してるなら、改善しなさいよ」
「はぁ? あなたに指図される筋合いはありません。黙っていてください」
「言わせておけば! 調子に乗るのもいい加減にしなさいよ!」
「あなたこそ、密猟者たちを一人で倒したからって、調子に乗らないでください」
「なんですって!」
「なんですか? やるんですか?」
俺は前を向いているから分からなかったが、二人の間で火花が飛んでいるのはよーく分かった。
「さーて、そろそろアパートに帰るか。|七〇一〇《ナオト》号出発進行! シュッ! シュッ! ポッポ! シュッ! シュッ! ポッポ!」
「あっ! ちょっと! 待ちなさい! まだ|銀髪天使《あいつ》との決着がついてないのよ!」
「シュッ! シュッ! ポッポ! シュッ! シュッ! ポッポ!」
「ちょっと! 無視しないでよ! ねえ、お願いだから、止まってよ! ナオトおおおおおおおおお!!」
こうして、俺は二人が殺し合いを始める前に、その場をあとにした。
このあと、めちゃくちゃ血を吸われることになることをこの時の俺は全《まった》く想像していなかったが、血を吸われることに最近|慣(な)れてきたせいか、ミノリ(吸血鬼)に血を吸われている時に快楽を覚えるようになってきた。
俺の体が、どんどんミノリに依存していくようで怖い。
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