※ちょいグロ
「やッやめてくれえ!!!」
ふと、そんな声で我に帰る。
気づけば俺は、いつも通り仕事をこなしているところだった。
どうも、昨日のことがちらついて仕方がないらしい。
なぜチラついて手が動かなくなるのかはよくわからないが、とりあえず目の前の人間を断罪せねば、とナイフを構える。
ゆらり、とナイフの刃が光を帯び、刃に穢らわしく絶望した表情が映る。
「ヒィッ‼︎ゆ、赦してくれよぉ‼︎俺が何したってんだよ‼︎」
耳を劈くかの勢いの、憎悪と怯えのこもった咆哮が飛ばされる。
弱い犬こそよく吠える、その体現がこの人なのかもしれない。
いや、そんなことよりも。
「…何をした?それが、わかってないの?」
「わ、分かる訳ないだろ‼︎」
ぶるぶる、と震えながらも、自分の権力を誇示するが如く叫ぶ。
ああ、こういうのが1番、穢れている。
早く、断罪しないと。
「それこそが、君の持つ1番の穢らわしい罪だよ」
ぷしゅっ、と何とも情けない音がして首の血管が切れる。
「…ぁぇ?」
ぶわ、っとどずぐろい赤が一瞬目線を支配する。
うわ汚い、と目を擦って、再び目を開くと、血で汚れたナイフと、自身の服が目に映る。
「あー、汚い…、俺までも汚れたじゃんサイッアク」
ナイフについた血をはらい、顔についた血を拭く。
服は…まあ、後で洗うしかないか。
はあ、という溜息を”肉の塊”に聞かせる。
沈んだ気持ちと共に、足取り重く、その場を立ち去る。
死体の処理とかは大体しない。
面倒臭いし、そっちのが報道されやすく、闇を暴きやすくなるからだ。
…さて、今からどうしようか。
この沈んだ気持ちをどうにかできるようなことが何か起きないか、と期待を灯していたその時。
「…ちょ、ちょっとねぇ!その服どうしたの!?」
後ろから大きな声をかけられ、肩を掴まれる。
服を見られた、ということよりも沈んだ気持ちゆえのめんどうくさいなあ、というのか勝り、力なく振り返った。
「いえ、なにも…って、あの時の」
振り返った、そこにいたのは、この前教会の近くで迷子になっていた、黄色髪の人だった。
向こうもこちらが誰か気付いたようで一瞬顔を綻ばせるが、再度服に散らばる赤色を見て、その顔を歪めた。
「あ、え、あの親切な人じゃん‼︎マジで何があったの!?転んだ!?」
「あー…まあ、そんな感じ?」
言えなかった。
別に、真実を言えばいいものを。
この仕事に、誇りを持っているし、別に言って嫌われようとも、それは仕方がないことだし、何回も経験をしているはずだ。
でもなんでだろう?
…この人にだけは言いたくないと、思ってしまったようだ。