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「なら最初から、そんな事言うな!!!」
起きたら暗い場所にいた。何も見えない。何も無い。手で壁があるか確認してもなにもない。音もない。空気があるのかも分からない。でも生きている感覚はある。私はスカートのポケットからスマホを出してライトを起動した。パッと明るくなった。
「なに…ここ」
照らされた先には沢山の私の昔の絵が無数にあった。最近のもある。それも全て没の絵。
過去の嫌な記憶が頭にフラッシュバックする。何かが込み上げてくる。いらつく。
「ふざけやがって…」
あの絵の方に駆け出した。優しく触れる。最初に私は「しののめえな」と自分の名前がひらがなで書かれているスケッチブックをペラペラと開いた。懐かしいな、この絵は3歳の頃に描いたっけ。少しだけ頬を緩ませた。あの頃はただただ楽しいしか感じなかった。絵がストレスなんてあの頃の自分には無関係の話だ。懐かしく絵を見ていたら私の前に優しくて温かい光が現れた。なに?私はその光に手を伸ばした。
「きゃっ!」
眩しい。私は反射的に光に目を逸らした。少し時間が経つとその光は徐々に弱くなってきたので再びその光を見てみた。
「は…?」
その光は幼少期の私とあいつ(絵名のお父さん)が映っていた。
ーみて!お父さん!たんぽぽを描いたの!上手くかけたでしょう?
幼少期の私が大きくスケッチブックを開きながら自信満々にクレヨンで描いたたんぽぽを自慢げにお父さんに見せていた。
ー上手だな。
うそつき。
心の中で私は思わず突っ込んでしまった。だって本当だもん。今、高校生の私がこんな幼稚なたんぽぽの絵を見せたら何も言わないくせに。
すると横からお母さんがお父さんの隣に座った。うそ、全然顔が違う。
ー絵名は将来画家かな?
やめて。
ーわたしお父さんを超える画家になるんだから!
やめて。そんな希望しか映っていない目なんてしないで。
ーふふ、だって。お父さん?
やめて。何も言わないで。どうせ、どうせ
ーそうか、頑張れよ
…は?なんで?
幻影が消えた。幼少期のわたしもお母さんもお父さんも全部消えた。私は強く手を握った。
ーお前に画家になれる才能はないー
「うるさい!!黙れ!!!」
後ろから聞こえるあいつの声に私はつい叫んでしまった。声が聞こえる後ろを振り返った。なにもない。また幻影があると思っていたけどないみたい。私の心はもう悔しさでいっぱいだった。私は没の絵を次々に破った。うるさい、うるさい、うるさい!!!
ビリッ
みんなそうだよ、小さい頃に「できる」って夢を持たせておいて結局大人になって進路について相談して、幼少期の時の夢を親に相談したら「できない」って言うの??ならなんで、どうして最初にできるって言うの、幼少期の頃の私と今の私何が違うの?歳?小さい子にはたくさんの夢を持って欲しいからお世辞でも、嘘でも希望をもたせるの?
ビリビリッ
「なら最初から、そんな事言うな!!!」
「はぁっ…はあ…」
気づけば泣いていた。汗もかいていた。私の周りに散々と散らばっていた絵はいくつか汗や涙で滲んでいるものもあった。
「っ…あぁ…」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
声に出して泣くなんて、いつぶりだったんだろうか。今まで我慢していた感情がぶわっと一気に溢れ出た。悔しい。
絵名
誰かが私を呼んだ。それはあいつの声でもお母さんの声でも彰人でもない。私は振り返った。もう顔はボロボロなんだろうな。せっかく朝メイク頑張ったのに。
「絵名」
「…奏?」
いつも聞いているから余計に安心する声だった。奏、会いたかった。
奏の後ろには瑞希やまふゆもいた。みんな私の前に1歩歩みよってくれた。目線を合わせるために3人は腰を下ろしながら涙を拭ってくれた。奏は右目、瑞希は左目。まふゆは背中をさすってくれた。冷たかった心や体がだんだん温かい温もりを感じるようになってきた。また涙が溢れた。これは悔しい涙じゃない。嬉しい涙かもしれない。今までの私はずっと私しか見ていなかった。どうして大切なニーゴの存在を思い出せなかったんだろう。
私の大切な居場所
絵名お姉ちゃん!!
横から私の声が聞こえた。同一人物なのに“お姉ちゃん”付けなんてバカみたい。幼少期の私は元気いっぱいの笑顔で私の手を握ってくれた。あたたかい。
一緒に画家になろうね!!
子供はいつだってそうだ。“できない”が分からない。でもそれが私たち高校生や大人の夢を見つけてくれるんだろう。
ありがとう
必ずなるからね。