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「はぁ……」
何も変わらないある日、俺__中村春人は、『入学式』と書かれた看板の前でため息をついた。
今日は高校の入学式。でも、本当は高校なんて行きたくなかった。高校なんて、俺にとっては不必要だし。
正直俺は未来を見ようとは思わなかった。
未来を見たところで、行動して、未来を歩んでいくのは俺だし、想像しても、それがうまくいくとは限らない。
俺は、自分なんてこの世にいらないと思っている。1回自殺をはかろうとしたこともあった。
でもその時は友達に見つかって、結局俺の親に全てを話しやがった。でも本当に俺は死にたかった。
俺は未来なんていらない。
だから、高校に行くと未来が近づいてくるみたいで怖かった。そして俺は、いつでも自殺できるように、一人がよかった。
なので友達がいなさそうな高校を受験した。
俺は成績も運動神経もダブルで駄目だ。怪我も多いし、テストも0点ばっかり。
だから受からないだろう、そう期待していた。
だが、運が良かったのか、受かってしまった。
仕方なく行くことにしたが、これは親の説得だ。
俺は行きたくないと言ったが、これは貴方のためなの、みたいなことを言われて無理やり行かされた感じ。
「入学式……か、、誰もいないといいけど」
まわりがざわざわ歩いて話している中、俺は一人ぼそっと呟いた。
体力がなさすぎて、混んでいる中で校舎までいくのは大変だった。
やっとのところで校舎まできて、クラス表をみる。
クラスは1年B組、出席番号はどうでもいいから見ない。
あとは友達や知り合いいるかだけど。
「……よかった、誰もいなさそうだ」
ぱっと見、友達らしい名前がなかったので、俺はほっとする。
1年B組は二階。階段がある。そのことでまたため息が出る。
まだまわりはクラス表を見ているのか、校舎の中は結構空いていた。
人が少なくて、空気も吸いやすい。おかげで少しは体力がでそうだ。
先程より体力がついたのか、1年B組にはあっという間についた。
人はまだ少なく、クラスには前後左右で自己紹介をしている人や一人でじっと外を眺めている人もいる。
俺は多分、一人でじっと外を眺めている人に含まれるだろう。
俺はこっそり持ってきたスマホとイヤホンを鞄から取り出し、イヤホンを耳につけて音楽を聴き始め、そしてぼーっと外を眺めた。
音楽を聴き始めて15分程たった頃、一人の男子が話しかけてきた。
「やあ、君は…なんていうのかな?」
俺は話しかけられたので、イヤホンを外した。
どうやら友達になりたいのか、話しかけてきたらしい。
なる気はないけど。
「……中村春人」
俺はぼそっと呟くように、自分の名前を言い、すぐ下を向いた。
「中村君かぁ、いい名前だね。僕は早河俊太、よろしくね」
そう言って男子__早河君は、俺に握手を求めてきた。
人の手を握るのは、いつぶりだろうか。
きっと、中学1年生から握っていないだろう。
俺は、早河君のゴツゴツした大きい手をじっと見て、自分の手を見た。
自分の手は、少ししかゴツゴツしてないし、小さいし、しかも細い。
早河君とは大違い。それでも、ずっと待たせるのはな、と思ったので、手を近づけ、握手をする。
小さい俺の手と、大きいゴツゴツした早河君の手が触れる。
俺は早河君を羨ましがってるかもしれない。
自分は成績も運動神経もダブルで駄目。なのに、早河君は成績も運動神経もダブルで良さそうだ。
俺も、こんな人で生まれたかったな、そう思ってしまう。
そして、こんなヒョロヒョロなからだにしたのは親のせいだ、とも思ってしまう。
俺は、早河君と友達になりたいのだろうか。そんなわけないだろう。
俺は友達なんていらないと、中学2年生から思っていた。
そして友達がいないだろう高校に来た。なのに新しい友達を作ろうなんて、俺の頭にはそんな考えなかった。
「……えっと、よろしく…?」
「なんで疑問形なんだ?」
俺が戸惑っていると、早河君はぷっと笑った。
「ああそうだ、君、彼女とかいるか?」
すると早河君は唐突に彼女がいるかを聞いてきた。
「えっ、いない……けど……」
勿論、俺には彼女なんかいない。
まず中学校は男子校だったから、女子に関わることが少なかった。
それに、俺は彼女なんかいらないし、恋もしたくなかった。
__したくなかった、はずだった。