コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「あそこにいる女子いるだろ?あの子、まだ彼氏いないらしいから、話しかけるといいよ」
早河君は、廊下側の一番うしろの席を指した。
そこには、髪を2つに結び、眼鏡をかけ、俺と同じく頬を怪我している女子の姿があった。
俺はあの子を見た瞬間、どくんと大きく心臓の音がした気がした。
「ふぅん……」
いつのまにか、俺はあの子をぽーっと見ていた。
「……中村君、大丈夫かい?ずっとぽーっとしてるけど」
早河君に声をかけられて、俺は我にかえる。
「えっ、だ、大丈夫…」
俺は頬を上げることはほとんどなかったが、今使うべきだろうと思い、無理やり笑顔をつくった。
そしてまたその女子を見た。
あの子は、なんていうんだろう。どうして怪我をしているのだろう。
その女子のことを知りたくなった。
でも、俺は話しかけるのは苦手だ。
だからといって、早河君に呼んできて、と言っても、気になったのか?、とからかわれるだろう。
そこで俺は、なんとなく嘘をついた。
「えっと、紹介してくれてありがとう、今度話しかけてみるよ」
「そうか、ならよかったよ。今度、その女子と3人で遊ばないか?」
早河君はまんまと嘘にはまってくれた。が、俺が女子に話しかけることを前提にして、今度遊ぶ約束をしようとしている。
俺は遊ぶなんて、殆どない。俺だって遊びたかった。けれど、自殺をはかろうとしてから、みんな俺を避けてきた。
あいつは自殺をしようとした、あいつと関わるのはやめよう。などの隠口は毎日のように聞いていた。
そんな遊ぶことを避けてきた俺が、約3年ぶりに遊ぶ、そう考えると、うきうきしてくる。
「誘ってくれてありがとう。でも、やめておくよ」
遊びたいけれど、俺は断った。
例えばそれが、海で走ったり泳いだり、そういう体力を使うことなら、絶対に遊びたくない。
ゲームとか、そういう安全そうなやつはいいけれど。
「そっか…じゃあまた誘うよ」
そう言って早河君は自分の席についた。
「はぁぁぁ……やっと話し終わった……」
俺は大きくため息をついた。今日は何回ため息をついただろう。
まず人と関わることは、約3年していないから、ものすごく疲れた。
でも休むわけにはいかなかった。
何故なら、あの女子が此方をみていたからだ。
あの女子は、俺のことをじーっと見つめている。俺も女子を見つめ返す。
こうして俺らはずっと、相手を見詰めていたんだ。
そして色々あり、入学式はやっと終わった。
あの女子は、一人なのか、寂しそうに帰りの準備をしていた。
俺は意を決して、話しかけた。
「あの……」
俺が話しかけると、女子はばっと俺をみあげるように此方を向いた。
「……なんですか?」
女子は、鈴のような可愛らしい声で、俺を見ていた。その瞳は、なんだか期待を感じる。
「……いや、一人なのかなって」
「…はい、結局友達ができずに一人で帰るところですけど……」
すると女子は急に下を向き、寂しそうにした。
「えっと…俺でよければ、一緒に帰る?」
俺は何を言っているのだろう、そう心の中で呟いた。
名前も知らない男に、こんなこと言われて、女子は普通びびるだろう。
俺が女子でも、ああこれはナンパだ、と思ってしまう。
でも女子はぱぁっと嬉しそうな顔で此方を見ていた。
「いいんですか!?なら一緒に帰りたいです」
そう言って彼女は、鞄を肩にかけ、教室を出ようとする。
俺も女子について行き、一緒に帰ることになった。
正直女子とは約3、4年関わっていないから、少し気まずかった。
「あの…名前…聞いてもいいですか?」
そんな気まずい空気を正すために、女子は俺の名前を聞いてきた。
「ええと……中村春人……です」
俺は早河君の頃とは逆に、名前を彼女にはっきり言った。
「春人君かぁ……春に生まれたのかな?」
俺は素直に小さく頷いた。やはり名前で気づいてしまうか。
確かに俺は春生まれ。春に生まれたから『春人』。もっと真面目に考えて名前をつけてほしかった。
「へぇ…じゃあ生まれは4月とかかな。私は佐藤遥、私も春生まれなんだ」
漢字は春じゃないけどね、と女子__佐藤さんは言った。
「よろしくね、春人君」
「よろしく、佐藤さん」
「遥でいいよ」
お互いによろしくと伝えてからは、また気まずい空気が流れてしまった。
今気づいたが、少しは馴染んできただろう。遥も敬語が取れてるし、俺も緊張は少し途切れた。
「……なんか、気まずいね、」
「……うん。じゃあさ、春人君って、彼女とかいるの?」
気まずい空気をまた和まそうとしたのか、遥は唐突に彼女がいるかを聞いてきた。
またこれだ、どこかでこの会話聞いた気がする。
「いないよ、遥は、彼氏いるの?」
「いないなぁ…でも、好きな人は居る。さっきあったばかりだけど」
「ふぅん……今度その人教えてよ」
まあ少しは話しやすくなったかな、と思い、恋バナをしながら、俺らはバスに乗り、家まで帰った。