私、織原 衣都と彼――鹿目 宗悟さんとの出逢いは今から約三ヶ月前のこと。
私は当時、彼氏が作ってしまった借金を返済する為に昼夜問わず働いていた。
昼間はスーパーやコンビニで、夜はキャバクラで、それでも、彼氏のことが好きだった私は彼の為になれるならと一生懸命だった。
だけど、ある日、たまたまバイトが早く終わって部屋に戻ると、彼氏は見知らぬ女を部屋に連れ込んで、あろうことか、普段私と一緒に寝ているベッドでセックスしていた。
悲しかった。
そして、呆然と立ち尽くす私に彼は、
「悪いけど、お前はもう用済みだから、出てけよ」
冷めた瞳を向け、女の人を抱いたままで、私に出て行くよう言ったのだ。
あのときのことは、よく覚えていない。
通帳や印鑑などの貴重品だけを手にした私はそのまま部屋を飛び出した。
行く宛なんて無かったけど、私にはもう、戻る場所が無くなったんだと、その現実だけが残っていた。
その日はキャバクラの仕事は休みだったから、まずは住まいをどうするか悩んでいて、キャバクラは寮完備だったことを思い出して店長に話をしようと店へ出向いたそのとき、たまたま来ていた宗悟さんと出逢ったの。
「どうしたの、衣都ちゃん」
「あーその……実はちょっと色々あって、住まいが無くなっちゃって」
「住まいが? 衣都ちゃん、確か彼氏のアパートに住んでたんだよね?」
「えっと、まあ、そうだったんですけど……色々あって、お別れすることになりまして……」
「あー、そうなんだね。それで、うちの管理する寮に住みたいってこと?」
「はい」
店長に事の顛末を話して寮を借りられないか交渉しようとしていると、私たちの話を黙って聞いていた宗悟さんが割って入ってくる。
「おい、貴島、この女は店の女か?」
「あ、はい。そうですけど」
「おいお前、名前は?」
「え? 私、ですか? 織原 衣都……ですけど」
「衣都、俺が寮よりも良い場所を提供してやる。それと、キャバクラも今日限りで辞めるんだ。別の仕事を与えてやる」
「えっと……、え?」
「宗悟さん、その、衣都ちゃんに急に辞められるのは困るんですけど……」
店長の貴島さんも宗悟さんの発言にただただ驚くばかり。
「コイツの代わりは早急に用意して女を補充する。それならいいだろ? 気に入ったんだ、この俺が。問題あるか?」
「い、いえ……そういうことなら。衣都ちゃん、そういう訳だから、キミは今日から宗悟さんの元でお世話になって」
「えぇ?」
訳の分からぬまま、私はキャバクラを辞めさせられることになって、出逢ったばかりの宗悟さんに付いていくことになったのだ。
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