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放課後。
「……やっぱ、行くしかないよね。」
私は湊の家の前で立ち止まっていた。
授業中も、休み時間も、何度も湊の席を見てしまった。正直、自分でもなんでこんなに気になるのかよくわからない。
でも、昨日の湊の顔を思い出したら、なんとなく放っておけなくて──気づいたらここまで来てた。
ピンポーン。
インターホンを押すと、しばらくして玄関のドアが少しだけ開く。
「……なんだよ。」
そこにいたのは、髪が少し乱れたまま、薄手のパーカーを羽織った湊。
「なに、めちゃくちゃ元気そうじゃん。」
私は思わず言ってしまった。昨日あんなにフラフラしてたのに、今日は意外としっかり立ってる。
「別に、寝てただけだし。」
「ほんとに熱あったの?」
「あるに決まってんだろ。測ったら38度あったわ。」
「え、じゃあ今も?」
「ちょっと下がったけど、まだダルい。」
そう言いながら、湊は私の方をじっと見てくる。
「……で、お前何しに来たの?」
「いや、別に。ただの様子見。」
そう言うと、湊はちょっと驚いたような顔をして、少し視線を逸らした。
「……ふーん。」
なに、その微妙な反応。
「てか、お前、風邪うつったらどうすんの?」
「え? いや、そんときはそんとき。」
「バカかよ。」
「なんで!?」
「……俺だったら、せりなが風邪ひいても見舞い行かねーけど。」
「はあ!? それどういう意味!?」
「お前、弱ってるとこ見られたくないだろ。」
「……えっ。」
その言葉に、私は思わず黙ってしまう。
たしかに、自分が風邪ひいたとき、誰かに弱ってるとこ見られるのはちょっと嫌かも。
でも、じゃあ湊は?
「湊は……見られたくなかった?」
私がそう聞くと、湊は少し間をあけてから、小さくため息をついた。
「……もう見られたからいいけど。」
「なにそれ、変なの。」
私はクスッと笑った。
なんだろう、いつもみたいに毒舌吐いてくるのに、今日の湊はどこか素直な感じがする。
「ま、せっかく来たんだし、これだけ渡しとく。」
私はカバンからスポーツドリンクを取り出して、湊に差し出した。
「……は?」
「いや、水分補給しなきゃダメでしょ。」
「俺、ガキじゃねーし。」
「いいから受け取りなさい。」
湊は少しだけ眉を寄せて、しぶしぶ受け取る。
「……ありがと。」
「ん?」
「なんでもねー。」
そう言って、バタンとドアを閉められた。
……え、いま「ありがと」って言ったよね?
私はしばらくドアを見つめたあと、なんだか顔が熱くなってることに気づいた。
──なにこれ。
「……気のせい、だよね。」
そう自分に言い聞かせながら、私は湊の家を後にした。