「私は『第四階位びしょっぷ』の魔術師えくそしすと! イツキに勝・つ・ために、ここにきたんだから!」
高らかに宣言するかのごときニーナちゃんの言葉に、俺は別の意味で冷や汗を流した。
というのも、基本的に魔法やモンスターは語・ら・ぬ・も・の・。
30人近くもいる分別もつかない小学生たちの前で言うようなものじゃない!
ニーナちゃんが平然とタブーを踏みぬいたことに驚いた俺が周囲を見たが運のいいことに、周りの子供たちはこれから始まるであろう入学式に胸が高ぶって、俺たちのことなんて見ていない。
……良かった。
俺はそれに安堵の息を吐き出すと、ニーナちゃんに並ぶように立つと尋ねた。
「なんで僕に勝ちたいの?」
「…………」
ニーナちゃんは無言。
なるほど。言いたくないことは言わないと。
じゃあ、話を変えよう。
「僕に勝ちたいんだとしても、別に同じクラスでも勝てるんじゃないの?」
「ダメ! だって、同じクラスは運命だもの!」
「……?」
俺の当然の疑問に、ニーナちゃんは首を全力で横に振った。
いや、どういうこと……?
俺はニーナちゃんの言っていることが分からず、首をかしげた。
これって、俺が今どきの小学生についていけてないだけ?
「……なんで同じクラスだと運命になるの?」
「しらないの? 1年生いちねんせいの時に同じクラスの隣の席になった相手とは結婚けっこんするのよ」
「え、なんで?」
「日本にくるまえに読んだ漫画まんががそうだったの!」
そういって誇らしげに胸をはるニーナちゃん。
日本に来る前ってことは、やっぱり海外出身か。日本語うまいね。
少女漫画で勉強でもしたのかな?
しかし、盛り上がっているニーナちゃんには悪いが現実は小学生の時の同級生なんてほとんどが疎遠になるだけだ。同窓会って小学校じゃ開かれないんだ。まぁ俺は同窓会なんてものに参加したことは無いから想像なんだが。
けれど、そんな現実をニーナちゃんに教えてマウントを取るほど俺は子供じゃない。
こんなんでも中身は大人なのだ。大人と言えるほどろくに人生経験積んでないが。
なので、ニーナちゃんには笑顔で『そうなんだ。教えてくれてありがとうね』と返しておいた。
「だから、イツキは同じクラスだとだめなの!」
「そうなんだ。でも、隣の席と結婚するなら僕じゃなくても良いんじゃないの?」
「……?」
「向こう側とか」
俺がそういって指差したのは、俺の席からニーナちゃんの机を挟んだ奥。
当たり前だが、窓際でも壁際でもないニーナちゃんの机は2人に挟まれる形になっている。なので、俺と結婚したくないなら別に奥で良いと思ったのだが……。
……やべ、女の子じゃん。
はい。ニーナちゃんの隣にいるもう一人の子供は女の子だった。
これだと結婚できないからまた俺追い出されるの? なんてことを考えていると、ニーナちゃんは『それもそうか』みたいな顔をして俺から離れた。
それで納得するんかい。
いや、まあ小学生ってそんなものなのかも知れないけどさ。
「というわけで、よろしくね。ニーナちゃん」
「……ふん!」
友達10人までの道のりは、まだまだ遠そうだ。
9時45分になると、女の若い先生が教室に入ってきた。
すると、さっきまでの騒ぎが嘘のように引いてみんな自分の席に座る。先生パワー、凄い。
そして、先生は名前だけの自己紹介を簡単にすると、廊下に俺たちを出席番号順に連れ出した。すると、そこには既に6年生たちが並んで俺たちを待ってくれていた。やっぱりこれって全国共通だったんかい!
二度と使わないであろう知識を手に入れた俺は、6年生に手を引かれて体育館に向かった。
その途中で階段から降りながら、ふと感じ取った。
――なんか、い・る・な?
そう思って階段を降ると、さっき通ってきたばかりの下駄箱のところに、そいつがいた。
無乱造に髪の毛を伸ばし、ぼろぼろになったワンピースを来て、泥と傷だらけの素足で階段のところに立って、その腕には赤子のように何かを抱きかかえている。
だが、そんな変質者が立っているのに誰も何も言わない。
それが、怪異モンスターだからだ。
『あなたもォ、お、オおきく、なったらァ……! しょ、うがくせいィに……』
轟々と風のなるような執念の声。
見たところ第一階位か第二階位と言ったところだろう。
しかし、その亡霊は並んで体育館に向かう小学生たちをただじぃっと見ているだけで、こちらに何もしてこない。
……変だな。モンスターは子供を食べたがるんだけど。
モンスターは人間を襲うが、中でも子供を狙う。
それは、子供の方が魔力――即ち、生命力に溢れており狩りやすいからだ。
だから、こちらをじぃっと見ているモンスターには、ちょっともの珍しいものを感じる。だが、俺とそいつの目があった瞬間、亡霊は一歩踏み出した。
『おオきく、なるには、た、た、食べないと……!!』
うん。まぁ、そうなると思ったよ。
だが既に張っていた俺の『導糸シルベイト』が、亡霊を縛り上げるとそのままバラバラに切り刻んで、黒い霧にした。
終わり終わり。
こんなの関わってる時間はない。
俺はため息をついて、気を取り直した。
そういえば、ニーナちゃんは、さっきのモンスター見てたのかなぁと思って後ろを向くとちょうど階段を降りてきたところだった。じゃあ見てないな。
てか今のモンスター放っておいたら、ニーナちゃんが祓ってくれたんじゃないの。
だとすれば、海・外・の・魔・法・を見るチャンスだったか……?
イギリスの祓魔師エクソシストであるイレーナさんの言葉からすれば、イギリスと日本の魔法はどうにも違うっぽいんだよな。実際にイレーナさんが使ってたであろう『翻訳魔法』は『導糸シルベイト』を使っていなかった。
もっと別の魔術体系があるのだ。
……知りたい。
強く、そう思う。
もしかしたら、それは俺の知らない魔法の先・かも知れないのだから。
だったら、イレーナさんについてイギリスに行けば良かったんじゃないのと思われそうだが、それはそれ、これはこれである。全く自分でも都合の良い話だと思うが、俺はそれを見てみたい。
とは言っても、ニーナちゃんが海外出身とはいえイギリスから来たのかどうかは分からないので別の国の魔法かも知れないのだが。
そんなことを考えながら体育館に入ると、保護者たちがカッチリとした服装でパイプ椅子に座って並んでいた。
そして、そこには俺の両親の姿とヒナの姿もある。
「ほら、あなた。あそこにイツキが」
「う、うむ……! 絶対に見逃さんぞ……!!」
遠巻きにそんな会話してるのが分かった。
そして、父親が見たこと無いくらい厳つい一眼レフを構えてた。
あ、それあれじゃん!
YouTuberが使ってる百万近い値段する、凄い良い画質で動画取れるやつじゃん!!
いつの間にそんなもの買ってたの……?
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