※続きです。
⚠️ごめんなさい本当に🔞表現あります。苦手な人ブラウザバックして下さい。
⚠️モブたくさん出てきます
…………いつの日だったか。
まだ、父親が生きていた頃だった。確か、父とウクライナと自分の三人だけで、どこか遠い花畑に行ったことがあった。
晴れていた。まだ幼かった兄弟は、自身の身を草花の中に埋もれさせるようにして遊んでいた。そんな彼らを、ソ連は遠くから見つめていた。
例によって、ウクライナは群生する花を丁寧に摘み取り、ロシアに花冠を作ってくれとせがんだ。ウクライナはまだ歩くのがやっとだった。ロシアは、その丸っこくて小さく、温かいウクライナを座り込んだ自身の膝の上に乗せてやりながら、花を編んでいた。
少しして、ついでに自分の分も作り終えると、ロシアはウシャンカを取って代わりにその花冠を乗せ、ウクライナの頭にもちょこんと乗っけてやった。それからウクライナの手を引いてソ連の元に戻った。
ソ連は、誰かと話しているようだった。見れば、高級そうな服に身を包んだ高齢の女性だった。
足元に転がりこむようにしてやってきた幼い兄弟を見て、彼女は笑った。
『───可愛らしい息子さんたちですね』
ソ連がなんと返したかは覚えていないが、幸せそうに微笑んでいたのは、しっかりと記憶に焼き付いていた。
でも、彼女の言葉だけは克明に覚えている。
『こんなに可愛くて………、攫われたり、襲われたりしないか心配だわ』
彼女が言っていることは当時の自分たちには理解できなかった。
でも今ならわかる。
男だから、なんてのはいっさい通用しない。特にここ───戦場では。どうして気づけなかったのだろう。どうしてもっと彼を気にかけてやれなかったのだろう。後悔してももう遅い。今、目の前で起きている惨状が。机の上という狭いスペースに突如形成された地獄が。
こんなことが今まで起こらない方が、不自然だったのだ。
机上のウクライナ兵は、着ていたものを全て剥がされ、白い裸体を剥き出しにされていた。蛍光灯に淡く照らし出されたその薄い身体は肋骨が浮き出て見えるほどに痩せており、手も脚も、まるで骨と皮ばかりのように細かった。そして、抵抗しようとするその両腕を上に押さえつけられていて───
直後、視界から捉えた情景を頭が認識し、吐き気に襲われた。
彼の股間、下腹部、腹、胸元……それから顔。全て白濁した液体が付着し、汚れていた。初めて会ったときに見た可愛らしい顔は今や恐怖と苦痛に歪み切り、固く閉じられた目の下、涙が流れた跡がくっきりと残っていた。脚の力が抜け、思わず膝をつきそうになる。歓声のような声がうるさかった。耳鳴りがしているようだった。脳みそが沸騰してしまったようで、何も考えられない。
次の瞬間だった。
一際大きな歓声が上がった。
一人、下半身を露出させた男が、机の上の彼に覆い被さるようにして立っていた。野次のような声が盛んに飛び交う中、男は何やら呻いて手元を忙しく動かしている。その男が何をしようとしているのか瞬時に悟る。いや、悟ってしまった。ロシアは思わず目を逸らせようとしたが、一瞬、間に合わなかった。
男が、身体中を痙攣させて背を思い切り逸らした……その刹那、机上の少年の眼前で吐精した。それが、はっきりと見えてしまった。もろに精液が少年の顔、正確には口許にかかる。兵士たちがワッと湧いた。熱気が押し寄せた。頭をガンと殴られたような衝撃を感じ、ロシアは口許を両手で覆ってえずいた。それとほぼ同時だった。白いものに塗れた少年兵の口が押し広げられ、そこから途端に吐瀉物が勢いよく流れ出た。汚ねぇな、そんな声と共に男たちの下卑た笑い声が爆発する。そんな中で、ある声が、鮮明に───あれだけうるさい声の中で、その声だけは───はっきりロシアの耳に届いた。
「早く入れろよ」
ついに膝をついてしまった。四つん這いのまま喉を鳴らしてえずいた。しかし何も出てこない。胃液一滴すら口内に逆流することはなかった。ここで吐けたら楽なのに。
先ほどの男が、もはや抵抗もままならなくなった少年兵の腕を上に上げさせ、これでもかというほど机に押さえつけ、空いた方の手で少年兵の足を掴んで無理やり股を開かせた。男の怒張したそれが、蛍光灯の薄暗い光に照らされ、ぬらぬらと光っていた。
笑い声、歓声、叫び声が絶頂に達した。それらが耳をつんざく。ウシャンカを耳に押し当てても、それを突き破って聞こえてくる。人知れず呻く。
その時だった。
───ならしてねぇから痛ぇかもな。
ふと、そんな声が聞こえた。
……自分の意に反し、顔を弾き上げていた。目の前の惨状が否応なしに視界に飛び込んでくる。しかしロシアの脳内、淡い何かが、変な言い方になるが、言うなれば希望だろうか……そんなものが脳裏を掠めてゆく。
まだ、彼は。
(本当の意味で汚されてはいない……‼︎ )
その時だった。今まで目を瞑っていた少年兵が、ゆっくりと目を開けた。
視線が空中でかち合い、絡み合った。
恐怖に震えるその瞳が、酷いクマのできた目尻に浮かぶ涙が、眼窩から眼球がこぼれ落ちてしまうのではないかと言うほどに見開かれたその大きな目が、ロシアをとらえた。彼の口がかすかに蠢いた。
───助けて。
身体中が爆ぜたかのようだった。
気づけば、鉄砲玉のように男たちの中に突っ込んでいた。驚いたような声が瞬く間にあちこちで上がる。構わず人いきれの中に割り込む。男どもを押し除け、掻き分けて、やっと、机の前に立っていたあの男の元に辿り着く。ロシアは男を突き飛ばした。そして、かのウクライナ兵を庇うようにして立った。
「え…………」
一気に静まり返ってゆく会議室。潮が引いていくように、急速に無音になってゆく。
あれほど騒いでいた者たちは今や黙り込み、目の前の情景に見入っていた。
ロシアは俯いた。ウシャンカが目元に黒い影を作り出した。ゆっくりと両腕を伸ばして肩の高さまで上げ、両手を広げる。まるで、通せんぼする幼子のように。
「ロシア……様……?」
誰かが呟いた。
肩が震える。上手く息が吸えない。ここにいる者たちは皆、俺の仲間だ。大切な大切な仲間たちだ。でも今は、そう考えられない。ただの、本能に身を任せて生きる獣のようにしか思えない。
絶対に考えたくなかった事実が、今、頭の中を満たしていた。考えまい、考えまいと努力していたことだ。しかしもう、無理だ。それは、あまりにも簡単な事実───「この戦争において、強姦を禁止する規則は無い」───だから彼らを責めることは、現段階ではとても難しいこと。こんなこと、考えたくない。でもこれが事実だ。彼らは、レイプでさえも侵略のための手段の一つとして使う。
絞り出した声は、震えていた。
「…………人のものに手ェ出すんじゃねぇよ………」
言い終わるなり、吐きそうになった。
そんな言葉でしか救えない自分に、嫌気がさす。俯いていて本当に良かった。目尻に浮かんだ涙を見たものは、誰もいなかった。
『ねーおとーさん』
『……ん?』
『さらわれたり、おそわれたりって、どういうこと?』
帰り道、あの女性と別れてからロシアはソ連に聞いてみた。ソ連は少しだけ、困ったような顔をした。ソ連はしばらく考えてから、優しく答えてくれた。
『……痛いことされたり、嫌なことされたり、……ってことかな』
『ふーん』
気のないような返事をしたロシアだったが、すぐに顔を上げてソ連を見上げた。
『でもウクは大丈夫だよ!』
『……どうして?』
ソ連は微笑んで聞いた。ロシアは小さな胸を張って答えた。
『僕が、ウクのこと、守るから‼︎ 』
ソ連は驚いたような顔をした後、ゆっくりと、幸せそうな顔になった。大きな温かい手で、ロシアの頭をウシャンカ越しに撫でた。
…………守る。護る。最愛の弟を。
よくもそんなことほざけたな。
守れて無ぇじゃねぇかよ。これっぽっちもさ。
酒と精液と吐瀉物の入り混じった、酷い匂いが鼻腔を掠め、ふと我に返った。……どのくらい経ったのだろう。気づけば、周りの野次馬たちは元のようにとまでは行かないまでも騒がしさを取り戻していた。再び杯を酌み交わす音、笑い声、話し声がその場を満たしてゆく。
「なんだ………ロシア様も一人の男ってことか。安心したぜ」「分かる」「捕虜はおろか女にも手ェださねぇんだもん。優しすぎて心配だったんだよな」
そんな声が聞こえ、それに賛同する笑い声があちこちで上がる。ロシアは、言葉を失った。
そうか。先ほどウクライナ兵を庇ったことによって、俺も、性欲の抑えきれなくなった一人の男として見られたと言う訳か。敵から奪ったものを自分だけのものにしたいと思うのは当然だろうか?もしそれが本当なら、俺が彼を庇ったのも、そしてこれから俺が彼を無理やり犯すことによって、彼が俺専属の性奴隷として働かせられるようになるだろうということも………筋が通っている話だと、全然否定するに値しない話だと、そう、言えると言うことか……?
鉄の味が口内に広まった。いつしか、下唇を血が滲むほど思い切り噛み締めていたようだった。
ロシアは羽織っていたコートを脱ぐと、死んだように目を瞑っている机上の少年にかけてやった。吐瀉物や精液で汚れることは少しも厭わなかった。彼は、ピクリとも動かない。そのまま、羽のように軽い少年を横抱きに抱え上げると、ロシアは震える脚で会議室を後にした。
コメント
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ロシア優しい。
これ怖い…でも頑張って最後まで読んで良かったです、救いがある 「マワす」が初耳で調べてみたらこれまた怖い意味でした… 次回を楽しみにしています!!