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止まない雨の原因を突き止めるために雲の上までやってきたナオトとチエミ。
どうやら、それは氷山のような雲の中にいるらしい。二人が目標に近づくと風の刃が二人を襲った。
はたして、見えない敵の正体やいかに。
「ナオトさん! 加速です!」
「了解!」
彼が加速した直後、風の刃が彼が先ほどまでいた場所を通過した。
「危ねえ、危ねえ。チエミがいなかったら、今頃ミンチになってたな」
「そんなの嫌です! ナオトさんはナオトさんのままがいいです!」
チエミ(体長十五センチほどの妖精)が彼の髪の毛から顔を出した状態でそう言うと、彼は彼女の頭を優しく撫でた。
「大丈夫だよ。俺はお前を……お前らを一人になんてしないから」
「ナオトさん……」
「もう少しで目標が見えてくるはずなんだろ? だから、最後までサポート頼んだぞ」
チエミは目から溢《こぼ》れそうになっていた涙を手で拭《ぬぐ》う。
「はい! 分かりました!!」
二人が氷山のような雲の中心に到着したのは、それから数分後のことである。
*
「よし! 着いたぞ!! えーっと、それらしきモンスターは……あー、多分、あいつだな」
「ですね」
ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)が見つけたのは水色の鱗《うろこ》と赤い瞳が特徴的なドラゴンだった。ちなみに足は四本、翼は二枚、シッポは一本である。
そいつは雲の上に座っている。
おそらく雲を構成している雨や雪の粒を魔法か何かで連結して、一時的に床にしているのだろう。
「あいつ、なんか怯《おび》えてるな。えっと、こういう時は上からじゃなくて、下から行った方がいいんだよな」
「そうですね。自分より上にいる存在を警戒しているようですし、ちょっと傷ついてますから」
どこかでケガをして、飛べなくなったってことか?
それなら、早く手当てしないとまずいな。
ナオトはそいつが自分を見下ろせる位置まで移動しつつ、ゆっくりとそいつに近づく。
「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「大丈夫だよ、俺はお前を助けたいんだ。だから、警戒しないでくれ」
ドラゴンは唸《うな》り声を上げながら、風の刃をいくつか作った。
「知らないやつが来たから追い払うために攻撃したって、ところかな? まあ、気持ちは分からなくもないが、俺はお前を傷つけたりしない。だからさ、少しおとなしくしてくれないか?」
彼がドラゴンのいる雲に到着すると、ドラゴンは彼の目をじっと見つめ始めた。
「な、なんだよ。俺の顔に何か付いてるのか?」
「ナオトさん、このドラゴン、メスです」
「え? そうなのか?」
彼はその時、何かに気づいた。
「な、なあ、チエミ。ドラゴンって種族も、もちろん生殖活動をして、子孫を残すんだよな?」
「生き物の大半はそうしてきましたからね、ドラゴンも例外ではありません」
「じゃあさ、その……今、こいつが俺のことをじっと見つめてるのは、そういう意味だったりするのか?」
そうであってほしくないと願う彼。
しかし、その願いはチエミの一言で砕《くだ》かれた。
「ほぼ間違いないですね。このドラゴンはナオトさんに気があります」
「いや、なんかおかしくないか? 俺はこいつのこと何にも知らなくて、こいつも俺のことは何も知らないはずだろ?」
「ここから雲の中を進んでいるナオトさんに向かって的確に攻撃できるんですから、ナオトさんがここに来る前から監視していた可能性があります。ナオトさんだけに聞こえたという鳴き声がこのドラゴンのものだとしたら、それは一種の求愛行動です。つまり、ナオトさんはこのドラゴンに呼ばれたんですよ」
「だとしたら、なんで俺に向かって風の刃を飛ばしてきたんだ?」
「それはドラゴンの習性です。ドラゴンのメスは自分より強い相手でなければ、心を許しませんから」
「じゃあ、さっきのはテストで本当は俺のことが好きってことか?」
「まあ、そうなりますかね」
「な、なんだよ、それー」
彼の声が響き渡ると同時に、ドラゴンは彼の髪の毛から顔を出している妖精を吐息《といき》で吹き飛ばした。