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氷山のような雲の中心部にはドラゴンがいた。
そいつは、ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)を呼んでいた。
自分より強い存在としか子作りをしないというドラゴンの習性。
つまり、そのドラゴンは雨を降らし、風を起こすことによって彼をおびき寄せたのである。
「チエミー! 大丈夫かー!」
チエミ(体長十五センチほどの妖精)はそいつの吐息で吹き飛ばされてしまった。
彼がチエミの元に行こうとすると、彼は何者かに手を掴《つか》まれた。
「なんだよ! 俺は今、急いでるんだよ! というか、お前はいったい何者なんだ!」
彼の手を掴《つか》んでいたのは水色の長髪と赤い瞳と背中に生えた二枚の翼と水色のシッポが特徴的な美少女……いや美幼女だった。
「あっ……その……と、とりあえず何か着てくれないか? 目のやり場に困るから」
彼女は自分が立っている雲に手を伸ばす。
彼女はそれで胸と秘所を覆い隠した。
「よし。じゃあ、俺は用があるから」
彼がその場から離れようとすると、彼女は彼を後ろから抱きしめた。
「な、なんだよ! 何なんだよ! どうして俺の邪魔をするんだ! 離せ! 離してくれ! お願いだから!」
彼は彼女から離れようと試《こころ》みるが、彼女の抱擁《ほうよう》から逃《のが》れることはできなかった。
「ナオトさーん! 私は大丈夫ですよー!」
「チエミ! 良かった、無事だったんだな!」
「はい! 私は平気です! というか、その女の子は誰ですか? 先ほどまで、ナオトさんの後ろにいたドラゴンと同じ波動を感じますが」
「え、えーっと、つまり、お前は……さっきまで俺の後ろにいたドラゴン……なのか?」
彼女はコクリと頷《うなず》く。
「な、なんで擬人化できるんだよ! おかしいだろ!」
「ドラゴンのメスは相手が交尾しやすいように姿形を変化させることができます」
「つまり、こいつは俺と交尾したいから、人の姿になったってことか?」
「まあ、そういうことになりますね」
「ふ、ふざけるな! どうしてドラゴンと交尾しないといけないんだよ!」
「ア……あ……私の声、聞こえる?」
「ああ! 分かるよ! って、お前……まさか、もう言語を習得したのか?」
「私の声があなたに聞こえるようにしただけ。あなたにしか私の声は聞こえないし、理解もできない」
彼女はそう言うと、彼を解放した。
その後、彼の顔が見える位置まで移動した。
「そ、そうなのか。じゃあ、俺はこれで」
「行かせない」
彼女は再び彼を抱きしめた。
今度は正面からだ。
「くっ! は、離せ! 俺はお前のこと何にも知らないんだ! だから……」
「そんなこと、これから知っていけばいい。というか、一度やれば分かる」
「いや、だから、俺はお前と交尾する気はないんだよ! というか、やれば分かるとか言うな!」
「どうして?」
「え、えっと、それは……交尾ってのは子孫を残すためには必要なことだけど、そういうのはお互いのことをよく知ってからじゃないと気乗りしないというか、なんというか」
「どうすれば……どうすれば、あなたは私を受け入れてくれるの?」
「そ、そうだな。えっと、とりあえず離れてくれないか? 話しづらいからさ」
「分かった」
よし、今だ!!
彼がチエミと共にその場から離れようとすると、彼女は水色のシッポで彼をグルグル巻きにした。
「チエミ! このことをみんなに伝えてくれ!」
「で、でも! そんなことしたらナオトさんの初めてが!」
「時間稼ぎくらいならできる! だから、早く行け!」
「分かり……ました」
彼がチエミを見送ると、彼女は彼を自分の目の前まで移動させた。
「あなたは私のこと嫌いなの?」
「そうじゃない。けど、相手のことをよく知らないままやることじゃないんだよ。交尾ってのは」
「理解できない。人の一生は短いのに、どうしてさっさと交尾しないの?」
「そ、それは……交尾できる体になっても環境や社会が変化することによって、コストや将来を考慮しないといけなくなってだな」
「そんなこと気にしてたら滅ぶよ。人という種族が」
「そ、そうかもな。けど、少しずつ前には進んでいると思うんだ」
「そう。それで? 結局、私とはやりたくないの?」
「やりたくないって言ったら嘘になる。けど、今の俺の体じゃ、お前を満足させられないんだよ」
「それは別に気にしない。それより、少し味見してもいい?」
「味見? あー、そういうことか。えっと、その、くれぐれも口とかにはしないでくれよ? 初めてのキスは好きな人に捧《ささ》げるって決めてるから」
「それが私になることはない?」
「ないな。残念ながら」
「そう。けど、あの妖精が仲間を連れてくるまでに、あなたを私の虜《とりこ》にする」
「さて、それはどうかな?」
彼女が彼を堕《お》とすのが先か、チエミが仲間を連れてくるのが先か……。