薄暗いオフィスに、キーボードを叩く音だけが響いていた。
吉田武史は無表情でパソコンを見つめながら、溜息を噛み殺した。営業課長としての仕事は山積みで、定時など過ぎている。隣のデスクは空だが、吉田は帰れそうにない。
「課長、まだ残ってたんですか? さすがっすねぇ〜」
声をかけたのは若手社員の田村だ。嫌味とも皮肉とも取れる言葉を残して、彼は手を振って去っていく。吉田は力なく笑った。
その時、受信箱に新しいメールが届いた。差出人は見覚えのない名前だ。
件名:雨の日は微笑む日
吉田の指が一瞬止まる。嫌な予感がした。恐る恐るメールを開くと、そこには簡潔な文が記されていた。
「仕事だ。傘を持て。」
背筋に冷たいものが走る。吉田はデスクの横に立てかけた、長傘に視線を落とした。会社員の裏に隠した“死神”の道具が、じっと彼を待っていた。
その夜、吉田武史は14年ぶりに傘を握りしめ、闇へと足を踏み入れた。
コメント
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めっちゃ面白いです!続き待ってます(*´꒳`*)