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いつの間にかドア脇の壁に押し付けられていた。
ドア側には紫雨の左腕が通せんぼをしていて、逃げられない。
こうして抵抗してみるとわかるが、細身だと思っていた身体には意外と筋肉がついていて、硬い。
細身な上に筋肉も女性並みにしかついていない由樹にはびくともしない。
「逃げらんないよ」
由樹の意図を察したのか、その熱い吐息が耳にかかる。
「お前が邪魔するから、最後まで出来なかったじゃん。どうしてくれんの?」
紫雨の右手が由樹の左腰の筋肉をなぞる。
「……うっ」
思わず漏れてしまう声に紫雨が楽しそうに笑う。
「あ、やっぱりここらへん、好き?」
尚もその周辺のツボを探すように指で強めに押してくる。
「……ッ!……ッ!!」
自分の腕を口に当て、声が出るのを防ぐ。
(……俺が、そこダメのをなんでわかる…。初対面なのに…!)
「ここらへんが弱い奴って、大抵さあ。ドМのネコちゃんなんだよね」
言うとまた唇を掬いとられるように塞がれる。
肩で由樹の身体を壁に押し付けながら、今度は両手で腰のやや後ろ側に強めに指を入れてくる。
(……やばい、この人……!ムカつくけど、めっちゃキスがうまい……!)
口内を嘗めとられながら、由樹は目を閉じた。
そんなわけないのに、彼の十の指が、腰に開いた穴から、体内に入ってくるような恐怖と快感を覚える。
「なんでここが、そんなに感じるか、わかる?」
十分に味わった後の紫雨が、濡れた唇を舌なめずりしながら笑う。
「……?……あッ!」
身体を翻され、壁を向かされる。
弾みで鼻を打ち付けて悶絶していると、紫雨の手が両側から腰を掴んでぐいと引いた。
たちまち、壁に手をつき、臀部を突き出した状態になった由樹を見て、紫雨はまた笑った。
「ほらね、こうやってバックでやるときにさ」
言いながら自分の下半身を由樹の臀部に当ててくる。
「掴むでしょ?ここらへん。だからだよ」
言いながら先ほど指で愛撫した腰を掴んだ。
「ほらね」
言いながら腰を打ち付ける。
互いのスーツを隔てているはずなのに、硬いソレの形がわかる。
(あ……やばい。これ……ダメだ……!)
由樹は目を瞑った。
やっと忘れかけていたその感触に、その入り口がまた、覚醒し始めるのがわかる。
硬くて熱いのが欲しくて、疼きだすのがわかる。
あの圧迫感が……
あの痛みが……
あの熱さが……
欲しくなる。
「……何やら物欲しげな腰だなあ」
僅かに左右に揺れた腰の動きを敏感に察したらしい紫雨が笑う。
「そんなに欲しいなら、挿れてや……」
ビクッと身体が硬直する。
「おーい。新谷―?いんのかー?」
展示場内を反響するその声は……
篠崎の声だった。
「あらあら、篠崎さんだね」
紫雨が耳元で囁く。
「わざわざマネージャー自らお迎え?めずらし。あの人、新人には厳しいのに。可愛がられてるね」
「早く、離してください!」
由樹も小声で言うと、紫雨は微笑んだ。
「ねえ、知ってる?篠崎さんってさ」
唇を耳につける。まるで耳の中で話しているような声で、彼は言った。
ゴンと誰かに殴られたような衝撃が頭を襲い、目の前のクロスの柄が二重に見えた。
「あはは。ホモもゲイも一緒か」
紫雨の笑い声が遠くなっていく。
(イが嫌い?じゃあ、もし、バレたら。せっかく少し仲良くなれそうだと、受け入れてもらえそうだと思ったのに。根本的に嫌われてしまう……!)
「こんな状況見たら、どう思うかな?」
紫雨が尚も笑う。
「ちなみに俺がソッチってのは、あの人知ってるから、冗談には見えないと思うな。それに」
その手が由樹の股間に回る。
「こんなに硬くしてたら、君の方もイイワケできないと思うけど?」
もうすでに痛いほど硬くなっているそれを上下に撫でる。
「ちょっ……!」
叫びそうになって慌てて口を塞ぐ。
「……ほらほら、どうする?」
臀部にはまだ紫雨のモノがぴったりと押し付けられている。
そして右手の三本の指は、由樹のそのカタチを確かめるように、凹凸に沿って上下する。
「…………ッ!」
今まで体の関係をもった男たちはこんなことしなかった。
ただ、掴んで上下に扱いて、挿入して、腰を振って終わり。順序だてて滞りなく進行していくその行為は、どこかスポーツに似ていた。
こんなにねちっこく刺激したり、声、唇、指を器用に使い分けて、同時に攻めてくる男なんて会ったことなかった。
(こんなの……卑怯だ……っ)
由樹は心では全力で拒否しながら、生まれて初めて全身を包む快感に戸惑っていた。
「……ねえ。出しちゃえば?」
残酷な悪魔が、とんでもない提案を囁く。
「何を馬鹿なことをっ!」
「だってそうしたら、こんなに硬くなってるの見られなくて済むじゃん?」
「いやいや、もっとひどいもん見られるでしょーが!」
「大丈夫。案外、スーツの外までは染みてこないって。トイレで脱いで、ノーパンで帰ればいいだけじゃん?」
「……あんた、頭おかしいんですか!?」
「ほら、早くしないとマネージャーに見られちゃうよ?」
「あれー?新谷―?」
キッチンの方を回っていた篠崎が、とうとう階段を上がり始めた。
「我慢しないで出しちゃえ」
トントン
トントントン
トントントン
階段を上がってくる音が聞こえてくる。
「ほら早く。嫌われたくないでしょ」
トントントン
トントントン
規則的に聞こえる足音が近くなる。
それと同時に、紫雨の指も強くそして早くなっていく。
(やばい……!やばい……!)
「新谷、ここにいたのか」
篠崎が主寝室に入ってきた。
「あ、お疲れ様です」
「お疲れー……って、お前、何してんの?」
バルコニーに続く大きな掃き出し窓を開きながら由樹は笑った。
「空気の入れ替えでもしようかと思って」
「……24時間換気システム、初めからついてんだけど?」
篠崎が呆れて目を細める。
「あ、あれ?そうでしたか?」
こめかみを汗が伝う。
「んなの素人でもしってるよ。勉強不足だなー。戻ったらカタログを一から読み直せ」
「すみません」
面白そうに二人を見比べていた紫雨が、篠崎に会釈する。
「お疲れ様です。マネージャー。新谷くんを迎えに来たんですか?」
「あー。支部長を送り届けたついでにな」
言いながら、窓を閉めた由樹に向かって顎をしゃくる。
「挨拶は?」
「あ、まだ事務所にはお邪魔してないです」
「はぁ?じゃあお前今まで何してたんだよ」
「俺が」
紫雨が強引に会話に加わる。
「案内してたんですよ。いろんな展示場見た方がいいと思ったので。ね、新谷くん?」
「……あ、はい。ありがとうございました。紫雨リーダー…」
「紫雨さんでいいのにぃ」
紫雨が笑うと篠崎は目を細めた。
「まーいいや。俺、これから打ち合わせだからさっさと行くぞ」
「あ、はい!」
股間にある違和感を気づかれないように何食わぬ顔で行こうとしたそのとき、
「………!!」
ぐいと後ろ手を紫雨に掴まれた。
「……な、何ですか!」
篠崎も振り返る。
紫雨は意味深に由樹の股間を見つめ、少し首を捻っている。
(……こいつ……!!)
恐る恐る自分でも確認する。
良かった。染み出してはいない…。
「何だよ?紫雨?」
篠崎が眉間に皺を寄せる。
対照的に爽やかな笑顔を作りながら、紫雨は篠崎を見上げた。
「新谷くん、小便漏れそうらしいんで、まずはトイレに行かせてあげてくださいね」
「……は、小学生かよ」
篠崎が呆れながら寝室を出て行く。
(………デ〇ドノートってどこかに売ってないのかな)
由樹は生まれて初めて人を呪い殺したいと願いながら、まだ微笑んでいる紫雨を睨むと、いつもよりがに股で階段を降りていった。