夜も更け、基地の廊下はひっそりと静まり返っていた。白川はひとり、自室のベッドに横たわり、天井を見つめている。
霧島との会話が頭から離れなかった。
「……好きな人、いる?」
その言葉が何度も何度もリピートする。
白川:「……いるわけないじゃん。」
そうつぶやいたけれど、心はなぜかざわついた。
霧島のあの真剣な表情。ふざけてばかりの彼が、あんなふうに誰かを好きだって言うなんて。
白川:「……誰なんだろ。」
少しモヤモヤしながらも、ふと自分の胸に手を当てる。
白川:「……私の好きな人、か。」
思い浮かぶのは、いつもそばにいる、あの軽口ばかりの男の顔。
白川:「……違う。違う違う違う!」
ぶんぶんと頭を振る。
白川:「なんで霧島なんか思い浮かべるのよ!」
勢いよく起き上がると、鏡に映った自分の顔はほんのり赤かった。
白川:「……バカみたい。」
でも、ドアをノックする音に、その考えは中断された。
霧島:「おーい、白川ー。まだ起きてる?」
声の主は、まさかの霧島。
白川:「……なに?」
ドアを開けると、霧島はにこにこと笑って立っていた。
霧島:「眠れなくてさ。ちょっと散歩でも付き合えよ。」
白川:「……はぁ?」
面倒くさそうにため息をつきつつも、なぜか断れずに廊下へ出る。ふたりは並んで歩きながら、静かな夜の基地を進んだ。
霧島:「なぁ、白川。」
白川:「……なによ。」
霧島:「お前……好きな人、いる?」
また、あの質問。白川の心臓がドクンと跳ねる。
白川:「……いないけど。」
そう言いながら、視線はなぜか霧島を避けた。
霧島:「ふぅん?」
霧島はからかうような目を向けてくる。
霧島:「ほんとーに? 俺、なんとなく分かるけどなー。」
白川:「……何が?」
霧島:「お前さ、俺のこと――」
白川:「言ったら殺す。」
バチンッと霧島の額を指で弾く。
霧島:「いったー! ひどっ!」
白川:「……余計なこと言うとマジで殴るから。」
霧島:「はいはい、分かりましたよっと。」
でも、霧島はニヤニヤ笑ったままだった。
霧島:「ま、俺の好きな人も、意外と近くにいるしな。」
その言葉に、白川の心はまた、ざわついた。