コメント
2件
「ギチリという効果音が自由に手を動かすのを許してはくれなかった。」 この表現大好きです
依然と何かにつけられている気がしてならない。
“自意識過剰”とはよく言ったものの、僕目的では無い歩行者をそう警戒してしまっては、流石に申し訳がないのであまり周囲を見ないようにする。
先程よりかは人がだいぶ多くなった気もする。けれど混雑時と比べれば比にならない程少ない。
背後からの視線が気持ち悪かったので、近くにあった路地裏へと入り込み、目的を見失った追尾者たちが慌てて走り去るまで様子を伺う。
「どこに行った?見失ったか?」
「いや、そう遠くには行っていないはずだ。探せ」
リーダーらしき人物の声が他の人員を統括すると共に足音が近づいて来るのが分かる。
ここにいてはまずいと判断し、まだ道の続く狭い路地を奥まで縫って進んでいく。音を立てないように、そっと、忍足で。
路地を抜けた先にあったのは、楕円状の広い空間だった。薄明かりの差す目の前の景色は、得意な人はイラストに出来るのではないかと思うくらいに神秘的な場所だった。
運動靴が地面にあったであろう石を蹴り、静かに音が反響して行く。
「やぁこんにちは」
後ろから声が聞こえると同時に視界が回り、次の瞬間には全く身動きが取れない状態になっていた。頬に少し痛いものが刺さることから地面だと断定し、背中に乗られ体重をかけられていることが分かる。
“話し合い”…という空気ではない。ね。
「ッ誰ぇ〜…?w」
胸が圧迫され声が思うように出ない。
無理に声を出そうと、空気を肺に入れようとすれば頭の血管が切れそうになる。
上の人物が答える。
「その質問には答えられないかなぁ…」
上から更に体重がかかる。このままでは肺どころか、胸骨や肋が逝かれてしまう…。
うまく呼吸が出来ない。
徐々に酸素が行き届かなくなる頭が、視界をどんどん遠ざけていってしまう。
あ、これヤバい…___
そこで意識は途切れた。
目を覚ました場所は、全く知らない天井だった。
痛みを感じていた頬を撫でながら体を起こそうとしても、ギチリという効果音が自由に手を動かすのを許してはくれなかった。
「あ、起きた」
オレンジ色の綺麗な瞳が目の前に来ると同時に、先程まで失っていた重さが再度降りかかってくる。
しかし路地裏で経験したものとはまた違い、彼自身が乗る重さでは無く、彼の[操る重力]だった。
まぁ簡単に言えば彼は能力持ちなのだろう。逆に、それでなければ説明がいかない。
「重ッ…たぃ、んですけど…ッ?」
「仕方ないでしょ命令されてんだから」
感情の無い、冷淡に発せられる言語。
何処からか扉の開く音がする。
ガチャ__