**—昼休み—**
「桜庭、ちょっとこい。」
いつもどおりお弁当を食べていたら、突然、湊に呼び出された。
「え、なに?」
「いいから、こい。」
そう言われて、私は渋々教室を出る。
渡り廊下まで来たところで、湊が急に立ち止まり、私をじっと見た。
「……お前、ほんとは国立の小学校に通ってたんだろ?」
「っ!?」
思わず息を呑む。
「な、なんで、それ……」
今まで誰にも言わなかったこと。私の中でずっと隠していた過去。
湊はポケットに手を突っ込んだまま、少しだけ眉をひそめる。
「さっき、先生と話してるの聞こえた。」
「っ……」
「お前、頭いいんだろ?」
「……そんなことないよ。」
私はギュッと拳を握る。
「受験、落ちたんでしょ。」
「……っ!」
湊の言葉が、心に突き刺さる。
「別に、隠さなくてもよくね?」
「よくないよ!!」
私は思わず声を上げた。
「だって……みんなには言えない。期待されてたのに、全部ダメだったから。」
湊は少し驚いたように私を見ていた。
「……そうか。」
湊はふっと目をそらし、ポツリと呟く。
「じゃあ、俺たちの秘密な。」
「え?」
「俺、お前がそんなこと気にしてるって知らなかった。でも、言いたくないなら、俺も誰にも言わねぇよ。」
「……」
「お前が、そうやって必死に隠してたこと、俺だけが知ってるってのも、悪くないしな。」
そう言って、湊はニヤッと笑った。
「なっ……!!」
私は顔が一気に熱くなるのを感じた。
「なにそれ、ずるい……!」
「は?」
「そんな言い方……なんか……」
私はそれ以上言葉が出てこなかった。
湊が私の秘密を知っている。
そして、それを「俺だけが知ってる」って言った。
それがなんだか、すごく特別なことに思えてしまった。
湊。胸が騒いじゃうよ。
**—放課後—**
「せりな、一緒に帰ろ?」
悠斗が満面の笑みで私の隣に立つ。
「え、でも……」
チラッと湊を見ると、湊は特に何も言わず、そっぽを向いていた。
「たまにはいいじゃん。」
悠斗は自然に私の手首を軽く引っ張る。
「えっ、ちょっ……!?」
「ほら、急がないと!」
私は成り行きで悠斗と一緒に帰ることになった。
(え、悠斗、こんなに積極的だったっけ!?)
歩いていると、悠斗が少し距離を縮めてきた。
「せりなってさ、湊と最近仲いいよね。」
「え?」
「なんかさ、前より話すようになったなって思って。」
「う、うん……まあ、席が隣だから。かな?」
「でもさ、湊って結構お前のこと気にしてると思うんだよな。」
悠斗は軽く笑いながら言う。
「……湊が?」
「うん。なんか、せりなのことばっかり見てる気がするし。」
「そんなことないでしょ!」
私は慌てて否定するけど、悠斗はニヤニヤしたままだ。
「じゃあ、俺ももっと気にしようかな。」
「え?」
その瞬間、悠斗がふっと私の顔を覗き込んできた。
「湊ばっかりじゃ、つまんないし?」
「……っ!!?」
距離、近い!!
「な、なに急に……!!」
「俺、せりなのことも気になってるし。」
「ええええ!?」
急にそんなこと言われて、私の頭は真っ白になった。
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