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「おいおい、会長。マジですか…」
結城がなぜか前髪のちょんまげを解きながら言った。
「―――だから言ったのに…」
清野が、眼鏡をずり上げながら目を逸らす。
「…………」
諏訪が3人を睨み上げる。
その目付きに素早く反応した尾沢が諏訪を睨み落とす。
「はい、失礼しますねー!」
そんな雰囲気をもろともしない右京は、生徒会室の扉を後ろ手に閉めると、蜂谷と尾沢の二人をコの字型に並んでいる長机の端に並んで座らせた。
壁に立てかけてあったパイプ椅子を持ってきて、二人の正面に座ると、右京はにんまりと笑った。
「んで?具体的にどうやって更正してくれんの?会長?」
蜂谷がニヤニヤと右京を見つめる。
「んーと、まずはだ!授業に出ろ!」
右京は二人を交互に指さした。
「出てる」
「毎日」
「毎時間」
二人の口が交互に動く。
「そっか!じゃあ、その件はいい!」
右京はあっさりと頷いた。
「じゃあ、煙草、吸うなよ!百害あって一利なしなんだぞ!」
言うと、
「吸ってない」
「だって髪の毛臭くなるし」
「今時流行んねえだろ」
「そっか!わかった!偉いな!」
またまたあっさり認める右京に生徒会のメンバーたちは項垂れた。
「じゃあさ。暴力は止めろよ。みんな怖がるだろ!」
この言葉には二人とも黙って顔を見合わせた。
「じゃあ会長はさ。俺たちが黙ってやられてもいいの?」
尾沢が言う。
「何も俺たちが喧嘩売るわけじゃないんだよ。こういう派手な見た目をしてるとさ、向こうから絡まれることの方が多いんだよ。
だから、殴られないためにしょうがなくやってんの。正当防衛でしょ?そんなの。日本の法律でも認められてるだよ?」
その言葉に右京はうーんと腕を組んで頭を捻っていたが、やがて、
「――そっか。じゃあしょうがないな!」
にこっと笑った。
「いいんだ…」
結城が呟く。
「暴力を肯定しちゃったよ、アノヒト」
清野もため息をつく。
「右京君。嘗められすぎ…」
加恵も眉を寄せた。
「でも」
右京は立ち上がり、机に両手をつき立ちあがった。
「その派手な見た目を直すまでの時間だけだぞ」
2人が右京を見上げる。
「今日、これから3人で美容院に行って、お前らの髪を真っ黒に染める。金は生徒会執行部の会費から出す」
有無を言わせぬ物言いに、馬鹿にしていた4人はぎょっとしながら硬直した。
「……ねえ。会長」
蜂谷が口を開く。
「それってもしかして強制?」
言うと右京はふっと鼻から息を吐いた。
「強制なわけないだろ」
「………じゃあ」
2人がにやつきながら顔を見合わせる。
「強制ではなく、命令だ」
堂々と言い放つと、右京は口の端をつり上げて笑った。
「……んだとこの野郎…!黙って相手してやれば嘗めた口を利きやがって!」
尾沢が長テーブルを蹴り飛ばし立ち上がると、右京の胸倉を掴んだ。
「ちょっと、やめなさいよ!」
加恵が悲鳴のような声を上げる。
「先生呼んでくるわよ…!」
「呼べるもんならやってみろ、このアマ!!」
尾沢が怒号を張り上げ、諏訪が彼女の前に立ちはだかる。
生徒会室はシンと静まり返った。
「――まあまあ。熱くなんなよ、尾沢」
沈黙を破ったのは蜂谷だった。
「会長はちゃんと話せばわかってくれる男だよ?」
言いながら立ち上がり、尾沢の手を剥がさせると、掴まれたことで皺が寄った右京の制服をパンパンと叩いた。
「ねえ。会長。俺たち、実は去年も髪色戻そうとしたんだよ」
右京は大きな目をぱちくりとさせた。
「そう、なのか?」
「うんそう。でも髪色戻しってさ、傷むじゃん。髪が」
言いながら蜂谷は自分の赤い髪をくるくると指で弄んだ。
「だからあっという間に戻っちゃったの。しかも傷んだ分、もっと明るくなっちゃって」
右京の目が赤髪と金髪を往復する。
「だからさ。ある程度伸びるのを待って、それで明るいところを一気に切っちゃうってのはどうかな。そうすればまた色戻っちゃったりしないと思うし。夏くらいには伸びると思うから」
蜂谷の提案に、右京はまだきょろきょろと二人の髪を見ながら考えている。
「……ねぇ。まさかそんなわかりやすい言い訳に引っかかったりしないよね?」
結城がまた囁く。
「そのまさかを裏切らないのが、うちの会長ですよ…」
清野が言うと、
「……わからなくはない。よし!それでいこう!」
叫んだ右京に、4人は頭を垂れた。
◇◇◇◇◇
2人が帰ると、4人は一気に机に突っ伏した。
「なんか、どっと疲れた。なんで連れてくるかなー」
結城が言うと、
「教室で話していて誰かに見られでもしたら、あいつらのイメージますます悪くなるだろ」
右京がもっともらしい顔で言った。
「あのな、イメージじゃなくて、本当にワルいんだよ。わかれよ、そろそろ!」
諏訪がすごむ。
「髪型だけで人を判断すんなって言ってんだろ!」
右京は諏訪を睨んだ。
「それで?その髪型さえ更生できなかったのは、どこの誰ですか?」
清野も机に伏したまま言った。
「ばっか、聞いてたか?夏にはあいつら黒い短髪の爽やかマンに生まれ変わるんだよ!」
「はああああああ。信じてやがるよ、この人おおおお」
結城が大げさなため息をつく。
「んで?肝心の創立記念式はどうするんだよ」
諏訪が言うと、右京はフフフと笑った。
「世の中には1日だけの黒染めスプレーというものがあってだなぁ!彼らにはそれを使ってもらう!」
「使うかな?」
「……使わないでしょうね」
結城と清野がまた机に突っ伏す。
「もう面倒くさいから当日休めって言えばいいじゃねぇか」
諏訪が副会長らしからぬことを言うと、右京はぶんぶんと頭を振った。
「ダメだっ!それじゃあ俺が高橋と交わした約束が果たせないじゃないか」
「――――」
諏訪はため息をつきながらこめかみを掻いた。
「よし。そうと決まったら、一番傷まない髪色戻しスプレーを探してくる!」
右京は立ち上がると、学生鞄を手繰り寄せ、生徒会室を飛び出して行ってしまった。
「ほんと、怖いもの知らずって言うか…」
結城が呆れながら椅子に凭れ掛かる。
「“生徒会“と一緒くたにされるこちらの身にもなってもらいたいです」
清野が項垂れる。
「でも―――」
加恵は遠ざかる足音を聞きながら微笑んだ。
「二人相手に啖呵切ったのは、ちょっとだけ、かっこよかったよね」
賛同できない二人がため息で返す。
諏訪は右京が飛び出していった扉を見ながら小さく舌打ちをした。