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次の日―――。
「このスプレーはナチュラルで、”漆黒感”がないんだよ」
閉めきった密室で、買ってきた赤髪のウィッグに、いきなりスプレーをかけ出した右京に呆れながら、清野が窓ガラスを、結城が廊下側のドアを開けた。
「そんでさ、こっちのスプレーはものすごく乾くのが早い!」
今度は金髪のウィッグにそれを吹き付ける。
「へえ。それはそれは……」
諏訪が呆れて頬杖を突きながら、マスクにゴーグル姿の右京を見上げる。
「どっちがいいと思う?一応髪色戻しと名のつくもの、7種類を家で検証してこの2つに絞ってみたんだけど!」
繁華街を歩いていたら100%職質されそうな右京に言った。
「その無駄な努力は買うけど。でも俺たちに見せるんじゃなくて、あいつらに見せないと意味なくね?」
「そうなんだよ!」
右京はゴーグルを机に投げつけると、周りを見回した。
「あいつら!放課後生徒会室に来いっていったのに…!」
「え」
「げ」
結城と清野が振り返る。
「ここを更正施設に使うの、やめてもらっていいすか?」
「彼らを更生するのは会長の仕事であって、俺たち執行部の仕事じゃないですし」
「なんだよ、冷たいな…」
右京はマスクも外すと、ドカッと会長席に座った。
「2人の更生が、イコールでこの宮丘学園の平和に繋がると、なんでわかんないかな!」
「そもそも……」
結城が右京を見つめる。
「会長はどうして転校早々、縁もゆかりもないこの学校の会長になろうと思ったんですか?」
「―――なんだよ、いきなり」
目を見開いた右京をちらりと諏訪が見る。
「あー、それ私も興味あるなあ」
加恵も右京の隣に座った。
「どうしてそんなに頑張ってるの?右京君」
「――――」
言葉に詰まった右京が俯いたところで、
ドンドン。
開け放ったままの扉が叩かれた。
皆が振り返ると、そこには金髪の髪の毛をキラキラと春の日差しに反射させた尾沢が立っていた。
「尾沢!!」
右京が立ち上がり駆け寄る。
「来てくれると信じてたぞ!」
手を握らんばかりに目を潤ませた右京から一歩引いて、尾沢は面倒くさそうに眼を細めた。
「何だよ、用って」
「―――えっと。あれ?蜂谷は?」
右京が顔を廊下に出して左右を確認する。
「あー、なんか用があるとかなんとか…」
「はあ?なんだよ、全く!」
右京が眉間に皺を寄せる。
「2人の頭で試してみたかったのに…!」
「試す?」
今度は尾沢が眉間に深い皺を寄せながらデスクの上の染められたウィッグとスプレーを睨む。
「げ……」
「しょうがないから、お前の髪の毛で両方試してみ―――」
「あーっと!!もしかしたら!」
尾沢が慌てて言う。
「あいつ、ちょっと具合悪いって言ってたから、保健室あたりにいるかもなー」
「………?保健室?」
右京が尾沢を見上げる。
「なんか頭痛いとか気持ち悪いとか言ってた気がする」
「なん、だと……?」
「……信じちゃうのかな」結城が呟き、
「……信じるでしょうね」清野が眼鏡をずり上げる。
「それは大変だ…!」
言いながら黒板に走り一枚の紙を見上げる。
「ほら!今日は保険医は休みなんだ…!」
「なんで教員のシフト表がこんなところにあるんだよ…」
諏訪が呆れる横で、右京は走り出した。
「死ぬな…!蜂谷!!」
廊下を全速力で駆けていく右京を、道行く生徒たちが慌てて避ける。
「―――なあ、この間から思ってたんだけど」
尾沢は執行部を振り返った。
「あいつって、バカなのか?」
否定できずため息をつく面々に変わって、諏訪が立ち上がった。
「見ての通りだ」
「それはそれは。ご愁傷様だな…」
行こうとする尾沢を、
「待てよ」
諏訪が呼び止める。
「馬鹿かもしれないけど、うちの会長は真っ直ぐな良い奴なんだ。あんまりからかってくれるなよ」
その言葉に、加恵もうんうんと頷く。
「―――へっ。そんなの、俺じゃなくて蜂谷に言え。相当気に入ってるみたいだからな」
尾沢は呟くと、生徒会室を後にした。
◆◆◆◆◆
「ああッ。は、アア!」
自分の上でくねる腰と、左の乳房を掴みながら、蜂谷は下半身からジワジワと染みてくる熱い刺激に片目を瞑った。
「やば…。なんか……出そう」
言うと、女はウェーブのかかった髪を掻き上げ、微笑んだ。
「今日はずいぶん早いのね…。珍しいじゃない。溜まってたの?」
「何だそれ、人聞きの悪い…」
蜂谷は肘をつき、上半身を軽く起こすと、胸の突起を指先で転がした。
途端に女から甘い吐息が漏れる。
「まるで俺に他にも相手がいるみたいじゃねえか」
硬くなった突起を強めにつねる。
「――あッ!……もう…!」
女がリップでテカらせた唇で笑う。
3年8組。
最上響子(もがみきょうこ)
去年、出席日数が足りずにダブっているため、年は1個上。
顔よし。
スタイルまあまあ。
セックスの相性◎
執着するほど興味はないが、突き放すほどウザくもない。
そして彼女には大事な使い道がある。
(―――まあ、もうちょっと楽しんでもいーかな)
下から深く突き刺すと、
「んあ…っ!」
彼女はひときわ良い声で鳴いた。
◇◇◇◇◇
「そういえば…」
蜂谷のモノから抜いたコンドームの口を結びながら、響子が振り返った。
「会長に絡まれてるんだって?」
「……ああ」
蜂谷は制服の前をはだけたまま、ズボンを上げて笑った。
「なんでも、俺たちのことを更正してくれるんだって」
「はは、なにそれ。ウケる」
コンドームを保健室のごみ箱に投げ捨てると、響子はベッドの端に腰掛けながら笑った。
「今日は、来週の創立記念式に向けて、髪色戻しスプレーを実践するとか言ってたかな」
言いながら蜂谷もクククと笑う。
「え、まさかマジで言うこと聞いてあげる気?」
響子が驚いたようにこちらを振り返る。
「はは。冗談」
蜂谷は片膝を折った。
「創立記念式当日、そのスプレーを逆に会長の顔にぶっかけてやるよ」
「はあ?ひど…」
言いながらも響子は笑っている。
「真黒な会長のスピーチ、聞いてみたいだろ?」
「かわいそー」
「調子こいてる田舎上がりの会長さんに、現実の厳しさ、とくと教えてやるよ」
蜂谷が鼻で笑ったところで、ガラリと保健室の扉が勢いよく開いた。
「……そうか」
カーテンの影から姿を現したのは―――。
生徒会長の右京だった。
「あれー、会長。どうしたの。尾沢行かなかった?尾沢」
表情を凍らせている右京を蜂谷は覗き込んだ。
「……もしかして今の聞いちゃった?」
笑いながら言う。
「冗談だって、冗談!俺が会長にそんなことするわけないでしょ?」
右京の大きな2つの目が蜂谷を見下ろす。
「ちゃんと黒く染めますって。ほら、ちょっと彼女の前では悪ぶりたいってやつ?会長も男ならわかるでしょ」
しかし右京は口を開かず、ただ、静かに蜂谷を見下ろしている。
「ごめん!ごめんって会長!ちゃんと言うこときくから安心し―――」
「いや、謝る必要はない」
静かに右京の声が蜂谷の言葉を遮った。
「俺が悪かった」
「――は?」
「俺が―――し―――たのが、悪かったんだ」
「――――!」
蜂谷は彼を見上げた。
「……創立記念日当日は欠席してくれ。教師には俺の方から説明しておくから」
右京はそう言うと、蜂谷とついでに響子の方も一瞥してから保健室を出ていった。
「あーあ、会長ショック!!」
響子が高笑いをする。
「かわいそー。慰めてあげようかなー?よく見ると会長の顔、けっこうタイプだしー」
響子がいたずらっぽい目で蜂谷を見上げる。
「どしたの?」
響子は蜂谷の腕に人差し指を突き刺した。
「……今、あいつ、なんて言った?」
「え?」
響子はその人差し指を顎に上げて首を傾げた。
「よく聞こえなかったけどー。“俺が調子に乗ったのが悪かったんだ”……かな?」
「―――いや、違う…」
蜂谷はカーテンの端を睨みながら言った。
「なあ響子。……あいつって東北の何ていう学校にいたのか、調べられるか?」