湿った夜風に当たっているうちに、少しずつ少しずつアルコールが胃に落ちてきて、気持ち悪くなるのと同時に、頭が冷静になってきた。
「それじゃあ、主賓もフラフラなんで、今日のところはお開きにしまーす」
由樹を支えながら渡辺が他のメンバーに言う。
ジーンズの両ポケットに手を突っ込んだ猪尾が「おつかれーっす」と言ってお辞儀をすると、それを合図にみんなは俄かに帰宅モードになった。
明日は月曜日。全員仕事だ。
「……新谷君、大丈夫?」
仲田が話しかけてきてくれる。
「はい、大丈夫です」
なんとか答えると、その細い手で由樹の両頬を包み込んだ。
「展示場は別になるけど、工事課も設計課もインテリアも、展示場とか関係なく担当になるから。きっと一緒にお仕事をする機会はこれからいくらでもあるわ」
(そっか……)
この間の紫雨の現場だって、猪尾が担当だった。設計と工事には垣根がないのか。
(じゃあ、本当にお別れなのは……)
自分を支えている渡辺を見つめる。
(営業、だけなんだな)
なんだか目頭が熱くなってくる。
「………新谷君?大丈夫?吐きそう?」
由樹の熱い視線を感じたのか、渡辺がこちらを覗く。
「……いえ」
「送ってくからね。俺、飲んでないから」
「え?」
「ノンアルだったから。大丈夫だよ」
渡辺が笑いながらポケットから車のキーを出す。
「あ、でも、俺……」
言おうとしたとき、ぐいと、渡辺とは反対方向に腕を引かれた。
「ナベ。こいつ、いいわ」
見上げると篠崎が立っていた。
「新谷、俺と2人で二次会するから。先に帰ってていいよ」
由樹は思わず口を開けた。
「いいだろ?」
篠崎が無表情でこちらを見下ろす。
自分から提案しようとしていたのに、いざ篠崎から言われると由樹は硬直して、ただ頷くしかなかった。
「はい!もう、好きにしちゃってください!」
渡辺が丸い手を口に当てて2人を見比べる。
由樹はもう一度篠崎を見つめると、口元を引き締めた。
「ありがとうごじゃいます!!」
「………」
篠崎は呆れながらこちらを見ると、腕を引いたまま歩き出した。
(クソ……。冷めろ……。アルコール、分解しろ!俺の腎臓!いや、すい臓?あれ?脾臓?)
「……肝臓だ。バカ!」
篠崎が振り返らないまま言う。
いつの間にか声に出していたらしい。
由樹は恥ずかしさに口を噤むと、篠崎に連れられて、夜の街を歩きだした。