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♭ s i d e
今日の雨嶺は、どこか寂しそうに感じる。
『 なぁ、なんかあった? 』
「 ぇ、? 」
『 否ー、朝より元気ねぇなーって 』
「 …今日、すっごい眠くてさぁ… 」
へへ、と眉を下げて笑う。
嘘つき。お前の嘘なんて直ぐに分かる。
『 ……サボるか 』
「 へ、 」
今は2時間目の休み時間。
今から学校を出れば、雨嶺と長い時間2人で居られる。
つまり、何があるのか聞き出す事が出来る。
『 仮病使ってさ、学校出ようぜ 』
「 2人一緒に?流石に無理… 」
『 行ける行ける、ほら保健室行くぞ 』
本当はこんな事、駄目だって分かってる。
そ れ で も 、 多 分 雨 嶺 は 今 危 な い 。
今 じ ゃ な い と 、 も う …
も う 二 度 と 駄 目 な 気 が す る 。
『 失礼しまーす 』
「 失礼します、 」
「 あら、雨嶺君に海晴君。どうしたの? 」
『 昨日一緒に寝たんすけど、両方風邪っぽくて 』
「 一緒に暮らしてるんだっけ? 」
「 です… 」
雨嶺は申し訳無さそうに、俯きがちに答える。
「 取り敢えず体温測って、椅子使っていいから 」
『 はーい 』
2人で先生の死角になる席に座り、カイロを取り出す。
12月とはいえ、今日は今期一番の冷え込みらしい。
『 あんま高くしすぎんなよ 』
「 ん 」
雨嶺は、やっぱり元気がない。
声のトーンもいつもより少し低い。
華奢な白い肌の身体が、いつもよりか弱く見える。
『 っし、37.8° 』
雨嶺は、脇にカイロを挟んでいるのか脇に体温計を挟んで測っている。
そういや、雨嶺ってカイロ持ってたっけ…
ま、測ってるし持ってるんだろ。
「 38.4°… 」
『 高すぎじゃね? 』
「 行けるでしょ 」
ふぁ、と欠伸を漏らす雨嶺。
不眠症、って言ってたかな…それであんまり元気が無いとか…?
「 熱あるわねー…荷物持っておいで 」
『 はーい 』
こく、と頷く雨嶺は子供みたいだ。
『 早退出来るな 』
「 いっぱい買い物出来るね 」
『 一応服着替えてから行こうぜ 』
「 僕…何着ていこうかな 」
雨嶺は、あんまり服を持っていない。
見た事あるのは白いシャツと、黒のスラックスくらい。
あんまりにも持っていないから、俺の服をよく貸している。
『 俺のトレーナー貸してやるから 』
「 あの緑のやつがいいな 」
『 おう、じゃあ俺黒のやつで行くわ 』
愛 、 っ て な ん だ ろ 。
そ も そ も 愛 す る 、 っ て
ど う い う 事 だ ろ う か 。
よ く 考 え れ ば 、 俺 も 分 か ら な い 。
無 意 識 に 愛 を 受 け 取 っ て 、
無 意 識 に 愛 を 返 し て い た か ら 。
そ れ に 対 し て 雨 嶺 は 、
愛 の 受 け 取 り 方 を 知 ら な く て 、
愛 の 返 し 方 も 知 ら な い 。
俺 は 、 ほ ん と に 愛 せ る の だ ろ う か 。
「 ─ 、海晴 」
『 ぁ、ん? 』
「 もー直ぐ着く 」
『 ぱっと荷物取って、ぱっと出るぞ 』
「 ん 」
静かに教室へと入り、静かに荷物を取る。
幸い先生は黒板を書いていて、気付かれていないようだった。
『 っし、任務完了 』
「 家帰って、着替えて、買い物? 」
『 そーそー。俺の鞄と、雨嶺のコップ 』
「 クリスマスプレゼントも買わなきゃ 」
『 そういや明日クリスマスだな 』
『 後、雨嶺の誕生日 』
「 覚えてたの!? 」
『 忘れる訳ねぇじゃん 』
「 恥ずかしいなぁ…海晴は2月でしょ? 」
『 そーそー。何ケーキがいい? 』
あっという間に下駄箱へ着き、スニーカーへ足を通す。
「 ケーキなんて…勿体無いよ 」
雨嶺は、あまり自分に得をしたがらない。
何をするにも、自分は2番手。
『 いいから、何が好き? 』
「 んー…僕はー……いちごケーキ、? 」
『 俺チョコケーキ 』
「 じゃあチョコケーキ、それも好きだし 」
『 この際どっちも買おうぜ 』
「 食べ切れないよ、そんなの…笑 」
” ___________ “、と呟く。
小さすぎる、足音に掻き消される程の音量だったが、俺は確かに聞き取った。
只 、 は っ き り と 聞 き 取 っ た 。
否 、 聞 き 取 り た く な か っ た 。
其 れ で も 、 妙 に は っ き り 、
妙 に ゆ っ く り 、 聞 こ え て し ま っ た 。
ま る で 、 時 が 止 ま っ た か と 思 っ た 。
否 、 正 確 に は 止 ま っ て い た 。
君 が 言 葉 を 発 し て 数 秒 間 、
俺 の 中 で は 止 ま っ て い た 。
も う 僕 は 居 な い ん だ け ど … 笑
『 …なぁ 』
「 ん? 」
『 お前、俺の前から逃げんなよ 』
「 逃げる訳無いじゃん。愛してもらってさ 」
『 ならいいけど…… 』
考えるよりも先に、口走っていた。
” 逃げるなよ “ と。
まるで ” 俺の物 “ 、とでも釘を刺す様に。
それからは、淡々と事が進んだ。
鞄も買ったし、コップも買った。
お互いのクリスマスプレゼントも買ったし、雨嶺に内緒で誕生日プレゼントも。
『 ケーキは明日、取りに行くのな 』
「 はーい 」
『 はい、これ 』
長方形のラッピングされた袋を雨嶺に手渡す。
「 ?なに?これ 」
『 まーまー、開けてからのお楽しみ 』
俺の悪い癖だ。
隠し事は出来ないし、サプライズも気持ちが先走って出来ない。
「 わ、マフラーだ 」
白いマフラー。
雨嶺に似合うかな、と見つけた物だ。
マフラーの端には水色の雨の雫の刺繍が入っていて、まるで雨嶺の為に作られたかと思う程だ。
「 へへ、ありがとう 」
ふわ、と首に巻いた雨嶺は、やっぱり綺麗だ。
「 じゃあ僕も、これ 」
『 お、ありがと 』
手渡されたのは黒のマフラー。
『 ふは、雨嶺もマフラーか 』
よく見ると、端にはオレンジ色で刺繍された太陽のマーク。
「 海晴っぽいなー、って 」
『 これ、ペアっぽいよな 』
「 僕たちの事、バレちゃうね 」
ふふ、と笑みを零す雨嶺を横目に、俺は早くも明日の事を考える。
明日は、雨嶺よりも早く起きてずっと隣に居る。
雨嶺が逃げ出す隙を与えないように。
こ れ じ ゃ 、 ま る で 俺 が
束 縛 し て る み て ぇ じ ゃ ん 。 笑
ま ぁ そ う か 。
ま ぁ い い か 。
少 し く ら い 愛 を 履 き 違 え て も 。
「 海晴、おやすみ 」
『 おう、明日な 』
” 明日 “ 、と強調して2人同じベッドに眠りにつく。
雨嶺が少しでも長く眠れるように、お腹の辺りを軽く叩く。
『 ……雨嶺、 ──── 。 』
その日はいつもよりも遅く眠りについて、5時には目を覚ました。
雨嶺よりも遅く寝て、雨嶺よりも早く起きたはずなのに。
『 …は? 』
机の上に端正に置かれていたのは、
” 遺書 “ と間違いなく雨嶺の字で綴られた紙と、
綺麗に封筒に入れられた手紙。
そして、この部屋の合鍵だけだった。
「 海 晴 、 ご め ん ね 」
「 や っ ぱ り 未 来 が 描 け な い か ら 」
『 未 来 な ん て … … 』
『 俺 が 描 い て や る の に … ッ 』
履 き 違 え た愛が 、
交 差 し た 今 、 こ の 時 。
2 人 は 、 何 処 へ ───────── ?
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