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恋してしまった。
弟の友達に。
「あーただいま〜。バイト疲れたぁ」
「あ、兄さんおかえり!お風呂沸かしといたよ!」
「え?マジ?!ナイス優太!」
「でしょ!」
俺には弟がいる。6歳下の弟。小学生5年生で年が離れているため、毎日可愛がっていた。
「あ、あとね。友達が今日家に泊まるからお風呂早めに出て」
「え?友達って誰?」
「あー斗亜が来てるんだよね。いつもの」
「あー斗亜くんね!おっけー!早めに出るね」
そう。俺は優太の友達、斗亜くんのことが好きになってしまった。きっかけはなんてことなく、一目惚れ。俺と斗亜くんが初めて会ったのは去年の秋だった。
「あ、優太ー!!」
学校からの帰りで、優太たちの小学校の前を通るついでに優太を見かけたため、大声で呼びかける。
「あ、兄さん!!今日早いんだね」
「うん!一緒に帰ろ!」
優太は友達と話していたけど、俺の言葉に反応してくれた。それで、一緒に帰ることに誘った時…
「その人、優太のお兄さん?」
優太の後ろから顔をのぞかせた子がいた。その子は、まつ毛が長くて不揃いな感じだけどそれが綺麗で、口も鼻も肌もどれもかもが美しく見えた。彼が斗亜くんだった。
「お、優太の友達?よろしくね!」
斗亜くんの容姿に愕然としていたが、それを察されないように挨拶を加える。斗亜くんは、コクリとうなずいて、優太の服の袖を強く握っていた。
「あ、斗亜はねちょっと年上の人が苦手なんだって。関わりずらいみたい。」
「あ、そうなんだ。ごめんね」
斗亜くんはまた優太の後ろに隠れる。年上が苦手だというのなら申し訳ない。でも、そんな引っ込み思案な所も可愛らしいと思った。そして、これが一目惚れだと気づいたのはこの日から1週間後だった。
気づいた時には斗亜くんのことで頭がいっぱいで、また会いたいな、なんて思っていた。優太からもたくさん話を聞くようになってますます想いが増大していった。でも、6つも離れた下の子に想いを寄せるなんて、許されたことだろうかと思ってしまい、悩みに悩んでいた。
そのまま、高校へ入学し、斗亜くんとも会う機会が少なくなった。忙しい毎日だったため、斗亜くんのことを考えずにいたからか、もう関係ないことだと思っていた。
だが、今日優太から斗亜くんが来ることを知って、胸が高鳴った。まだ、彼のことが好きだった。そう自覚せざるを得なかった。
「優太〜!お風呂上がったよー!」
扉に手をかけながら、リビングにいる優太にそう話しかける。そして、リビングの中を見ると…
「あ、優太。お兄さん上がったって。」
ゲーム中の優太と斗亜くんがいた。斗亜くんは余裕そうに片手でやっていたが、優太は睨むようにテレビを見ながら遊んでいた。
「え?もうそんなに時間たった?」
「うん。ゲーム終わりね。」
兄さん出るの早くない?、と物足りないと言わかんばかりの顔のまま脱衣所へとぼとぼ歩いていく。斗亜くんはゲームを片付け、急いで優太の背中を追っていた。
「……」
呼び止めたくなる気持ちをぐっと抑えて、自室へと向かう。そのまま、ベットへと倒れ込む。
「んはぁ〜…家に来るなんて最悪…」
本当は嬉しい。けど、想いが抑えきれなくなることを考えると不運だな、と思う。俺の中の斗亜くんの記憶はどれも鮮明で、魅力的だ。だから、さっきまで近くにいたことを思うと心臓が不可抗力で高鳴ってしまう。あの声で、あの魅惑の口で「樹」と呼ばれるだけで立てなくなってしまうかもしれない。
「俺って気持ち悪いな……弟の友達にここまで惚れ込んで」
自己嫌悪も混じりつつ、斗亜くんともっと繋がりたいという欲に侵食されていく。俺は漏れ出る声を誰にも聞こえない喉の奥へとしまい、軽くドライヤーをした。その後、晩御飯を食べに1階へと向かう。
「あ、兄さんやっと来た!!」
リビングにつくと、髪を濡らした優太と斗亜くんがいた。かなり長く、部屋に居座っていたようだ。
「お風呂、気持ちよかったです。」
斗亜くんは、感謝の気持ちを込めるようにそういった。自然と声の方向へと目線を移動させ、お風呂後の斗亜くんの新鮮な姿に目を凝らす。髪にはまだ水が含んでいて、その水がぽとッと斗亜くんの肌へと落ちる。そして、その雫に反応して目を細める。そんな姿を見ていると、なんだか変な気分になってしまう。
「ほんと?良かった〜。夜ご飯まだだからゲームの続きでもして待っててね」
俺はそう言って2人に背を向けて台所へと向かう。そこには、母がいて、俺が来るなり早く手伝って、と言ってきた。仕方なく戸棚を開け、食器を取り出す。後ろから聞こえてる彼らの楽しそうな声が俺も遊びたい、という欲を引き出してくる。
「楽しそうだな〜」
そう口にするも、斗亜くんの体をずっと見てしまう。優太に駆け寄って、腰を反らせ、カーペットの上に手を付いて座る姿。その姿をみて、俺は静かに頬を赤らめる。
「ご馳走様!!」
優太の元気な声で、食事が締め切られる。食器をせっせと運び、優太は斗亜くんを引っ張って、歯を磨きに洗面所へと駆け出して行った。
俺も洗い物の手伝いをし、歯を磨きに洗面所へ向かったが、優太たちは既に姿を消していた。
「子供は元気でいいな〜、いうて、俺も子供だけど」
シャカシャカと音を立てながら鏡に映る自分の顔を見つめる。斗亜くんに比べれば見劣りする顔だ。優太も俺も目は丸く大きいけど、それに加えた二重くらいしか特徴がない。
優太はもっと俺よりも可愛い。ちょっと太めの眉が幼さを象徴して、クラスでも人気なんじゃないかなと思う。
「俺なんかよりも優太の方がよっぽど似合ってるよな……」
弟と好きな子を合わせるのは最低だ。でも、それほど仲の良い2人に嫉妬してしまうし、納得してしまう。
俺は、そんな得のないことを考えながら歯を磨き、終えて部屋へと戻った。