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自分の部屋に戻って一休みしたあと、早速例の缶詰を作ってみることにした。
材料はニシンと塩、鉄と樹脂……などなどっと。
……鉄と樹脂? これは缶の素材かな?
それじゃ、れんきーんっ。
バチッ
いつもの音と共に、私の右手の上には味もそっけもない缶詰が現れた。
シンプル過ぎる外観のおかげで、食べ物が入っているようにはどうしても見えない。
シールを張ったり、何か包装をしないと美味しそうじゃないかも……?
まぁそれはそれとして、かんてーっ。
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【シュールストレミング(S+級)】
ニシンの缶詰。臭いが強く、独特の味わいを持つ
※追加効果:美味(小)、臭い×1.5
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……何ということでしょう。
品質の高さが、味よりも臭いの方に出てしまっているではないですか。
ちなみに名前も、私の知っているものになっているけど……これは『ガルルン茸』と同じ理屈だね。
最初から命名しない限りは、『大いなる存在』がそれっぽい名前を付ける、っていうやつ。
他の世界から持ち込まれたものは、恐らくこんな感じで勝手に元の名前が付いてしまうのだろう。
「さて、作ってはみたものの、何かが足りないような……」
作った缶詰を眺めながら、何か物足りなさを感じる。
缶の外観というよりも、もっと根本的な何か……。うぅん、何だろう?
「……あ、膨らみか!」
10分ほど考えて、ようやくその答えが出てきた。
そもそも『シュールストレミング』というのは、缶の中で発酵が進む食べ物だ。
発酵が進めば缶の中でガスが発生して、そして缶が膨らんでいく。
つまり膨らめば膨らむほど臭いが強烈になる……という寸法だ。
今回は食べるのが目的ではなく臭いを出すのが目的だから、もう少し発酵を進ませたものを作ってみよう。
その辺りは、ある程度調整できるはずだからね。
というわけで、れんきーんっ。
バチッ
私の右手の上には、先ほど作った缶詰よりも、もう少し膨らんだものができあがった。
でもテレビで観たのは、もう少し膨らんでいたような……? まだまだいこう、れんきーんっ。
バチッ
もう一度作ってみると、ようやくテレビで観ていたくらいの膨らみの缶詰ができあがった。
多分は大丈夫だろうけど、強い力を加えるのは遠慮したくなる膨らみだ。
「……これ以上は、怖いかな」
さらに発酵を進ませるのも良いかもしれないが、作った瞬間に缶詰が爆発するなんてことになったら……部屋に臭いが付いてしまう。
さすがに自分の部屋でそんな失態をするわけにはいかないし、ここでもう止めておこう。
まぁ、外でも嫌だけどね。爆発するのは。
それじゃ、これが完成品ということで良いかな?
どれどれ、かんてーっ。
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【シュールストレミング(S+級)】
ニシンの缶詰。臭いが強いが独特の味わいを持つ。
発酵がかなり進んでいる
※追加効果:美味(小)、臭い×2.0
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……何ということでしょう。臭いの倍率だけが上がっているじゃないですか。
味はそんなに変わらない……?
「次は、最初に作った2つをアイテムボックスに入れて――」
先に作った缶詰自体を素材にして、再度れんきーんっ。
3つ目の缶詰と発酵具合を上手く合わせることができたので、『臭い×2.0』の缶詰を3つ作成することが出来た。
素材がまだ残っていたので続けて作ってみると、最終的には合計5つの缶詰ができあがった。
うん、さすがにこれだけあれば問題ないでしょう!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――アイナさん! 悲報です!」
缶詰を作り終えたあと、外装をどうしようかと考えていたところにエミリアさんがやってきた。
「え? どうかしたんですか?」
「お肉の話です!」
「お肉? 午前中に買ったやつですか?」
今日の午前中……メイド服に着替えて外出したときに、肉屋さんで買ったお肉。
ププピップのかなりお高いものだったんだけど――
「はい、それです!
クラリスさんが料理の趣向を凝らしたいというので、食べられるのが明日の夜になってしまいました!」
「おぉー、それは楽しみですね! ……それで、悲報っていうのは?」
「つまり、今日はププピップは無しなんですよ! わたしのお腹はププピップ|一択《いったく》だったのに!」
「あ……なるほど、気持ちは分かります。そういうのってありますよね」
これと決めたら、胃袋がそれを欲してしまう感じ。
欲したものが食べられるなら最高なんだけど、食べられなかったら……ストレスが溜まってしまうんだよね。
「ちなみに今日はお魚だそうです。アイナさんも、今からお魚用のお腹にしておいてくださいね!
ところでお魚といえば、例の缶詰はできたんですか?」
「はい。素材があるだけ作ってみたら、5つできました」
そう言いながら、アイテムボックスから1つだけ出して見せてみる。
「これがそうなんですか……。あれ、何だか膨らんでいません?」
「中の魚が発酵して、そこから出るガスで膨らむんです。
最初はあまり膨らんでいなかったんですが、今回は敢えて膨らませてみました」
「へー。それじゃ、これを開けたらもう凄いんですね!」
「試してみますか? 私は絶対に嫌ですけど」
「本当に食べ物なんですよね……?
うーん、興味はありますが臭いのも嫌ですし……。やっぱりこう、味は味覚だけではなくて、嗅覚も大切だと思うんですよ!」
「同感です。それではこれは、エミリアさんにはあげないでおきましょう」
「むむむ。嬉しんだか悲しいんだか分かりませんね……!」
「でも、ファーディナンドさんに全部あげることも無いでしょうし、2つくらいは残しておきますか」
「え? 食べるんですか?」
「いやぁ、そのうち何かに使えるかもしれませんし……?」
……とは言うものの、何の用途に使うかはまるで不明である。
使わないなら使わないで、そのまま永久放置かな。アイテムボックスの中で、発酵が進むわけでもないからね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕食が終わったあと、遅い時間にジェラードがお屋敷にやってきた。
客室に通して缶詰を3つ並べて見せてみると――
「これが例の缶詰? ……何だか膨らんでない?」
やっぱりエミリアさんと同じことを言われた。
なので、私からは同じ回答をする。
「はい。中の魚が発酵して、そこから出るガスで膨らむんです」
「ふぅん……、そんな食べ物があるんだね。それじゃ、これを開けたらもう臭いのか……。
ちなみにアイナちゃん、その臭いは嗅いだことはあるの?」
「無いですね。今度も嗅ぐ予定はありませんし、嗅ぎたいとも思いません」
「そ、そっか……。でもそこまでいくと、僕はちょっと興味が出てくるなぁ……」
「悪いことは言いませんけどね……。
一応まだ2つありますから、ファーディナンドさんの結果を受けて、それでも開けてみたければお譲りしますよ」
「おぉ、それじゃ一緒に開けてみよう♪」
「いえ、私は結構です」
「えー……?」
ノリが悪いよ、と言わんばかりに、ジェラードが私を見てくる。
いやいや、ノリでそんなの嗅ぎたくありませんから。
私は実際に臭いを嗅いだことは無いけど、臭いを嗅いだ人の映像は、テレビを通して見たことがある。
誰しもが激しいリアクションを取ってしまう臭いだなんて、私は絶対に嗅ぎたくはないのだ。
「――まぁ、了解したよ。
それじゃ、ファーディナンドさんにはこの3つを渡せば良いんだね」
「はい、よろしくお願いします。ところで外装とかは無いんですけど、大丈夫でしょうか。
このままだと、あんまり売り物っぽくないなって考えていたんですが」
ずっと考えていたものの、この時間になるまで案は何も出ていなかった。
デザインのようなことは錬金術では出来ないし、手書きで何とかしても微妙だし。
「そうだねぇ、それじゃ僕がちゃちゃっと細工をしておくよ。
他の缶詰の包装を使いまわせば良いよね?」
「おお、なるほど! そういえば一から作る必要なんてありませんよね。
正しい商品名である必要もありませんし……さすが、発想が柔軟!」
……むしろ、私の発想が貧困なだけだったのかもしれないけど。
「そうそう、あるものは有効に使わないと♪
それじゃ明日は早く出るから、僕はもう帰るね」
「はい、夜遅くにありがとうございました。
お届けもよろしくお願いします」
「うん、おやすみ♪」
ジェラードは挨拶をすると、缶詰をアイテムボックスに入れて帰っていった。
――さて、これでファーディナンドさんの件はひとまず終了……っと。
今日はいろいろあったし、もう寝ちゃうことにしようかな? 何だか疲れちゃったし。