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屋上での出来事から綾樹と結羽は付き合い始めるようになった。
その日の休日。
映画を見に行く約束していた綾樹は、待ち合わせ場所である駅前で結羽を待っていた。
早めに家を出たこともあり、三十分くらい前から待ち合わせ場所に来ていた。
結羽との初デートの高揚感に包まれて心が躍っている。
綾樹は少しドキドキしながら、スマホで時間を確認する。
もうすぐ集合時間が近づいていた。
「綾樹!」
名前を呼ばれ、綾樹はスマホから顔を上げる。
振り返ると、結羽が笑顔を浮かべて近づいて来た。
結羽は白いワンピースに柳葉色の上着を羽織っており、その姿は秋のイメージにぴったりだった。
「ごめん、待たせちゃった?」
結羽が少し息を切らしながら言った。
「いや、全然。俺も今来たところ」
本当は三十分前に来ていたが、綾樹はあえてベタな返答をした。
「じゃあ、行くか……」
綾樹は緊張しながら、結羽にそっと手を差し出す。
「うん……」
同じく結羽も緊張していて、照れくさい笑みを浮かべながら綾樹の手を取った。
そして、お互いの手の温度を感じながら駅通りを歩き始めた。
◇ ◇ ◇
チケットの販売機に辿り着き、二人は見たかった映画のチケットを購入する。
「上映時間まで三時間あるな……どっかで時間潰すか」
「そうだね」
綾樹の提案に結羽は賛成する。
「どこ行くか……あ、結羽の行きたいところでもいいぞ」
「私は綾樹の行きたいところでもいいよ」
「そう言われてもな……結羽は休みの日、どこに出掛けてんだ?」
「私はいつも家で過ごしているからな……あ、テスト期間明けにストレス発散でカラオケやゲーセンとか行くかな」
「カラオケにゲーセン⁉︎ え、マジで! 俺、カフェでお茶するイメージしてたわ」
結羽の意外な一面を知り、綾樹は吃驚する。
「へぇ、私ってそういうイメージなんだ」
「そうだよ。普段は大人しい感じだけど、実はアクティブなんだな」
結羽は少し嬉しそうに笑い、照れ隠しに髪をかき上げた。
「ちなみにカラオケで最高得点はどのくらい?」
「九十二点かな」
「九十二点⁉︎ は⁉︎ 俺なんか八十点の壁を越えたこともないんだぞ!」
「たまたまだよ」
「たまたまで取れる点じゃないぞ」
そこで綾樹は閃いた顔をした。
「なぁ、映画まで時間あるし、カラオケに行こう。そこで俺と勝負しないか?」
「勝負?」
「そう。退室時間までどっちが最高得点取れるか。そんで、負けた奴が勝った奴に好きな物を奢る。どうだ?」
「いいね! 面白そう! たまには歌ってストレス発散したい気分だし!」
「よし、じゃあ行くか!」
二人は手を繋ぎながら、近くのカラオケボックスへと向かった。
◇ ◇ ◇
「…………」
「ふふっ」
ベンチで項垂れる綾樹の隣で結羽は嬉しそうにクレープを頬張っていた。
あれからカラオケボックスで二人は二時間歌い、勝負の結果は結羽の勝利となった。
「綾樹、そんなに悔しかった?」
「悔しいに決まってるだろ! てか、結羽歌上手すぎだろ!」
「そうかな? 綾樹も上手かったよ」
「ホントか?」
「ホントホント」
綾樹の問いに、結羽はうんうんと彼が奢ったクレープを頬張る。
「お前……合唱コンで独唱あったら立候補しろよ」
「えー、嫌だよ。目立ちたくないし」
「じゃあ、俺が推薦する」
「だから、嫌だってば!」
「何でだよ! そんなに良い声持ってんのに!」
綾樹の言葉を聞いて、結羽は照れくさそうにしていると、ふと笑いが込み上げた。
「何だよ……俺が負けたのそんなに可笑しかったのか?」
「ふふっ。ううん、そうじゃないの。テスト以外で綾樹に勝ったの初めてだなって思って」
「あー、言われてみればそうだな。あ、なんならまた勝負するか?」
「いいね! テスト勉強のモチベーション上がりそう!」
綾樹の提案に、結羽はテンションが上がる。
「じゃあ、決まりだな。負けた方が罰ゲームってことで」
「罰ゲームかぁ……いいね! 内容何にする?」
問い掛ける結羽に、綾樹は「んー……」と考え込む。
「自分が苦手なものを体験するのはどうだ?」
「苦手なものか……私はジェットコースターかな。あの身体が引っ張られる感じ苦手なんだよね……綾樹は?」
「俺はお化け屋敷……恥ずかしながら」
「え、そうなの? 何か意外」
「急に飛び出してくるのが心臓に悪いんだよ……」
「あー……なるほどね。私、ホラーは得意な方だけど何かわかる」
「じゃあ、お互い苦手なものを暴露したことだし、結羽、負けないからな」
「私も。今度は負けないよ」
二人は新たな約束に心を躍らせながら、少しずづ時間が経つのを忘れてしまった。
「じゃあ、そろそろ行かないとな。上映時間が迫ってきた」
「あ、ホントだ。行こう!」
綾樹がスマホで時間を確認してベンチから立ち上がると、結羽も続いて立ち上がる。
結羽の笑顔が一層輝き、綾樹も心を躍らせながら、二人は手を繋いで映画館へ向かった。
そして、映画が終わった後、二人は帰り道で感想を言い合いながら、夕暮れの街がどんどん明るくなっていくのを見つめていた。
次のデートプランを話し合いながら、自然と明るい未来を思い描いていることに気づくのだった。
【了】