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双子の兄と言われる人と過ごす様になってもう半月くらい経つ。二人は朝から昼まで好きに仕事をした後で夕方、それぞれが台所について食べたいものを作る。それから夜は同じ部屋の同じベッドで眠る。お互いに何も付けないで、シャワーを浴びた後で裸になってベッドの掛け布団と敷布団の間に滑り込む。お互いの身体を最初見た時のことはあまり覚えていない。兄は、それをなん度も聞く。「僕って、何に似てると思う?」「うーん。」「ねえ。よく言われる事があるんだよね。」でも何度か聞かれてるうち、初めどう考えていたのかわからなくなった。いつだったか、兄がふざけているときに妹からからかいを含めて「おばさん」と言った事があった。それが彼をひどく傷つけたようで、後で一人でいる時に泣いているのを見た。妹は、育てにくい観葉植物の鉢植えの重みが人に考えさせることを思いながら、なぜだか良い気分になった。それから、暫くするうちに夜セックスをするようになった。これまでお互い何人かとセックスをして来た後だったが、こんなに相手からする事を導かれるようにしてするのは初めてだった。妹は自分から兄の体に触れて愛撫した。そうするうち、これまで相手の男が自分に感じてた筈の欲情がこちらに入って来たみたいに思えた。正確にはそれは挿入しないセックスだった。兄は「僕たちのするセックスは普通のセックスじゃない。これまでの人生を少しずつ溶かして、それを自分たちのために舐めとるみたいな事だよ」そう言われ、兄は妹の背中にある、誰からもまったく見えていない傷口にキスをする。妹は、自分はこうされることを待ってたんだとその時に思った。私の体には沢山の傷がある…両親や他人、数々の男たち、そういった誰かから付けられた、無数の傷。
強いて言えば兄は、魚に似ているのかもしれない。色んな機能より、必要なものだけ残したような体。兄は妹との違いを考えるようになり、そこで妹は完ぺきに兄からは女だと思われてることを知った。それは、いい気分だった。とてもとてもいい気分だった。兄が自分に触れている間は何回も声を出して、自分も兄に触れた。お互いの違いに触れ、そのうち目が合うだけでひりひりするくらいになった。それでも兄は挿入はしない、という。妹は悲しくなる。「どうしていつも、私の感情を押し出そうとしたの」と聞く。兄は笑って、何も答えなかった。けど、兄のペニ◯に触れてるとき自分たちは、ただ単にセックスしてるのではない、確かに何かから自由になっているような気持ちになっていた。
化粧品も服も余計なものを付けてない方がいい、と兄はよく妹に言っていた。妹はあらためて、他の男たちのことを思い出しながら、もしかすると兄はホモセクシャルなんじゃないだろうかと思う。ベッドに入る時は兄から言われた通り、妹は何も付けずに中へ入った。妹は恥ずかしがっていたが、兄はいつも真っ直ぐそれを見つめるだけだった。それ程大きくもない自分の胸に兄が愛撫するのを見て、妹は兄の頭を抱え込む。お母さんみたいな気持ちになっていた。互いにもつれるみたいに触っているうちにもう準備が出来ていたようで、兄は手を離すと妹の足を開かせて、自分が持っている性玩具を中へ入れる。圧迫感と、寂しさとで妹は兄にしがみつくが、ふと見るとそういう時の兄はこれまで見たこともないくらい優しい表情をしていた。妹は、自分が兄にとって壊れやすいものだったのだと思った。そう思えば、会った時から、昼間仕事をしているとき、兄が時々、外から連絡をくれる時、いつもそこに同じような目があったように思った。
昼間、無口になった兄が部屋に居る。難しい試験を受けるつもりなのか、色んな本を読んだり、色んな場所へ電話をかけたりする以外は、妹もそこにいないかのようにして過ごしていた。そういう時、それから一人でさっさとベッドの中で眠ってしまう時に、兄が一体どういう場所にいるのかをごく最近妹は知った。妹は兄に言って居なかったが、そういう時自分はセックスしているうちに良くなったように考えていた。兄がいない時、不特定多数の男とやり取りしているうち、かつては体の全てを占めて居た問題が、いつのまにか蒸発するみたいにして感じられなくなっていたのだと思う。けど兄は、そう言っても気分が良くなるわけではないと思い、それどころか余計に深く悲しむみたいだった。それで暫く兄が歩いている場所を眺めている事になった。何かを言ってしまっても良かったが、そのときは自分からただ待っている間の気持ちを知りたくなっていた。…暗いビル群、人ばかりしか居ない騒がしい繁華街、鬱蒼とした森、汚いだけの海岸、そういう場所は、全て妹が知っている場所だったが、兄がそこにいる時間は全てが自分にとっての記憶の中にある物事と結び付いているみたいに思え懐かしいと思って居た。兄はそこで殺人者になっていた。そこで妹を犯した男を、不具の老人を殴り殺し、貞操観念のない女達に罰を与えているのを見ている間、兄はその武器をいつまでもしっかりと握っていて、致命傷の与え方も初めからよく知って居た。
それはまったく同じ窓から、まったく別の人生を覗き込んでいるみたいな気持ちだった。
それから、再び兄が戻って来る。ベッドの中で、お互いの裸に触れながら、妹は兄の体を見上げる。つるつるしていて、傷一つ付いていないように思えた。けど顔は、全く別の方を見ているように見え、妹はその頬に手を伸ばす。そういう時の兄の顔はごく繕っていたとしてもどこかちぐはぐで、多分兄はどこかで泣いているのだと妹は思う。
妹は、その兄の傷口に唇を付ける。胸の間から汗の匂いがし、そこへ舌を這わせると兄はくすぐったがって微笑む。何度もそうしてるうち、自分達はこうやって海獣みたいに、どこかの海でスポーツをしているだけなのかもしれないと思う。「愛しているよ」と兄が言う時、その重みに彼は一度立ち止まる。兄の掌を妹がほどき、その中で互いに大切なものを探り合う。いつも、兄がするよりも先に手を伸ばす妹のことを兄はかわいいと思っている。