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荒廃した王国「アバロン・オブ・ラグナロク」の貴族街に近づくにつれ、異様な雰囲気が漂っていた。
「……静かやな。」
みりんが警戒した声で呟く。
普段なら屋敷の護衛や貴族たちの使用人が行き交う通りも、今はひっそりと静まり返っている。まるで死街のようだった。
「討伐隊が全滅したって話やけど……それだけじゃ説明つかへんやろ。普通、護衛とかもっとおるはずやん。」
サブは剣の柄に手をかけながら前を見据える。
「嫌な予感がするな……」
萌香は怯えたようにサブの後ろに隠れる。
「ねぇ、やっぱり戻った方がいいんじゃない?」
「旦那さんが行方不明なんだろ? ここで引き返せるかよ。」
サブが言ったその瞬間──
ズズ……ズズズ……
「……っ!」
遠くの屋敷の影から、異形のものが蠢いた。
それは、人の形をしているようで、していない。
四つん這いの黒い影。体は溶けかけたようにぐにゃりと歪み、無数の目が光っている。
「なんや、アレ……」
みりんが剣を抜く。
魔物──それも、ただの雑魚ではない。
「うわぁ……キモ……」
サブが思わず顔をしかめる。
「……魔物って、もっとわかりやすく『獣』っぽいもんかと思ってたんだけどなぁ……」
「見たことないタイプやな。せやけど……」
みりんは構えを取る。
「どう見ても、こっちを狙ってるわ。」
ズズ……ズズズ……
魔物は奇怪な動きでこちらに近づいてくる。
「どうする? 話し合いは……無理か。」
サブが冗談めかして言ったが、当然のことながら返事はない。
代わりに、魔物が一気に跳びかかってきた!
「チッ……! しゃーない!」
みりんが一瞬で踏み込む!
ズバァァッ!!!
斬撃が魔物の体を両断する……はずだった。
しかし──
「……え?」
みりんの剣が触れた瞬間、魔物の体が一瞬にして溶け、霧のように散った。
「……倒せた?」
そう思った瞬間──
背後から、ぞわりとした気配が這い上がる。
「後ろやッ!!」
サブの叫びと同時に、みりんが振り向く。
そこには──さっき斬ったはずの魔物が、何事もなかったように蠢いていた。
「……再生しよった!?」
「マジかよ……」
「逃げる?」
「いや……やるしかねぇ!」
サブは剣を構え直した。
目の前の魔物が、再びこちらに向かってくる。
「お前、なんやねん……!」
みりんがギリッと歯を食いしばる。
「なんや、ワケのわからん魔物がウヨウヨしとる場所に、貴族の旦那が消えたっちゅーことか……!」
サブも剣を握る手に力を込める。
「これは、想像以上にヤバいかもしれねぇな。」
貴族街の闇が、今、姿を見せ始めた。