「……こいつ、普通の魔物ちゃう。」
みりんが剣を構えながら低く呟いた。
目の前の異形はゆらゆらと揺れ、切られたはずの体を元通りにしている。霧のように形を変えながら、こちらに向かってきた。
「なぁ、どうやったらコイツ倒せんだ?」
サブが剣を振り上げるが、目の前の魔物は何の恐れもなく近づいてくる。
「わからん……けど、手応えがないっちゅーことは、普通に斬っても意味ないんやろな。」
みりんが睨みつける。
「おい、萌香! こんな魔物、貴族街に前からおったんか?」
サブが後ろにいる萌香に問いかける。
「い、いえ……私も見たことない……!」
萌香は顔をこわばらせながら首を振る。
「討伐隊が全滅したって話、まさかこいつの仕業なんじゃ……?」
「……あり得るな。」
みりんの声に、サブも眉をひそめる。
「ほな、どうする? こいつが討伐隊を全滅させたんなら、ウチらもヤバいんちゃう?」
「やるしかねぇだろ。」
サブは剣を構え直した。
「普通に斬ってもダメなら……炎とか効くんじゃね?」
「炎……せやな。再生する前に燃やしたら、流石に終わるやろ。」
「けど、炎魔法なんて使えるやついねぇだろ?」
「……おる。」
萌香が小さく呟いた。
「……は?」
「私の旦那様……炎の魔法が得意なの。」
「マジかよ!」
サブが驚く。
「……せやけど、そいつ今どこおんねん?」
みりんが睨むように問いかける。
「……それが、わからないのよ!」
萌香は歯を食いしばる。
「ここにいるはずなのに……どこにもいない……! だから、探しに来たのに……!」
「チッ……しゃーない、まずはこいつをどうにかするぞ!」
サブが剣を握りしめた。
魔物はニタァ……と笑うように、口のようなものを広げた。
その瞬間──
ズズズ……
「ッ!? 動きが……!」
魔物の形が一瞬で変わり、まるで人を模倣したようになった。
そして、低くくぐもった声が響いた。
「……カナ……シイ……」
「……喋った!?」
みりんが驚愕する。
「オマエ……ナニ……?」
「こっちが聞きてぇよ!」
サブが剣を振り下ろした。
しかし──
スカッ。
魔物の体は霧のように分裂し、サブの一撃をかわした。
「クソッ、どうすりゃ……!」
その時だった。
「……わたし……の……ヨメ……」
魔物がそう呟いた。
「え?」
萌香が、息を飲む。
「……ワタシ……ノ……ヨメ……ドコ……?」
「…………!」
萌香の顔が、真っ青になった。
「まさか……!」
サブとみりんが、魔物と萌香を交互に見た。
この異形の魔物……萌香の旦那なのか!?