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――残り56秒。
日哉の視界は暗闇に閉ざされたままだった。音は聞こえる。自分の大剣が風を裂く音。足音。吉田の叫び。
「日哉!やめろ!俺だ、吉田だろ――!」
その声は、届かない。いや、届いているのに、身体は動かない。
――残り49秒。
「やめろ……やめろッ……!」
必死に叫んでも、喉は音を発さない。代わりに、雨宮の笑い声が響いた。
「これは最高の舞台だ。“絆”見せてもらおうか?」
ズバッ――!!
「ぐあっ……!」
吉田の悲鳴。
「やめろおおおお!!!」
――残り38秒。
日哉の剣が、無慈悲に吉田を追い詰める。鋼と鋼がぶつかり、火花が散る。だが、雨宮に操られた動きは速く、正確だった。
「おいおい、どうした吉田?さっきまでの勢いはどこへ行った?」
「日哉……っ、お前……戻ってこい……!」
――残り27秒。
吉田の傘が大きく弧を描き、必死の反撃を繰り出す。だが、日哉の大剣はその全てを弾き返した。
「お前……そんなことで……俺を……殺せると思ってんのかよ!」
ドスッ――
鋼が肉を裂く音。
「……あ……?」
吉田の腹に、日哉の剣が深く突き刺さっていた。
「や、め……ろ……!」
――残り10秒。
吉田は崩れ落ちた。血が地面に広がっていく。
「お前が……お前がそんな奴なわけ、ねぇだろ……!」
残り5秒。
日哉の身体が震えた。
3秒。
「……戻れ……戻って、こいよ……!」
1秒。
そして――日哉は、自由を取り戻した。
だが、目の前にあったのは、血に染まった剣と、倒れる吉田の姿。
「……吉田?」
剣を落とす。足が震える。
「……吉田ァ!!」
叫びながら駆け寄る。だが、吉田は応えなかった。
「……はは、やっぱり、素晴らしいね。」
雨宮の声が響く。
「なぁ……なんでだよ……。」
日哉の手が、震える吉田の肩を抱く。
「なんで……俺が……ッ!」
その瞬間。
ズバッ――!!
日哉の胸を、黒い糸が貫いた。
「……っ……が……」
血が、口から溢れる。
「お疲れさま、日哉。」
雨宮は微笑んだ。
「君の役は、ここまでだ。」
日哉は、何かを叫ぼうとした。けれど、声はもう出なかった。視界が暗転する。力が抜ける。
最後に見たのは、赤い月と、崩れる街。
そして――日哉は、静かに倒れた。