赤崎が学校に来なくなって3日目__
学校は警察レベルの大騒ぎとなっていた。
原因を知っているのは私だけではないだろうか。
原因は私だろう、どう考えても。
あの日の放課後私はとんでもないことを犯してしまった。
自分が言われたら
“辛くて哀しくて心が痛む”こと。
私はそんなことを軽々しく口にした。
「二度と私と_関わるな」
違う。
違う。
違う。
そんなこと思ってない。
考えてない。
私はただ怖かったの。
びっくりしたの。
関わらないでほしいんじゃない。
嗚呼、今からでも間に合うだろうか。
__無理だろうな。私は。
後悔が押し寄せてくる。
私の腹から首まで登り詰めてくる。
あの時の赤崎の目。表情。
辛そうだった。
苦しそうだった。
泣きそうだった。
“運命の血”の持ち主に侮辱されたのだ。
そりゃあ不登校だろう。
あの日から離れない。あの赤崎の顔。
思い出すたび”後悔”の二文字が私を埋める。
もっと思い出す顔が笑顔だったら良かったのだろうか。
彼のホントウの笑顔。まだ見たことがない。
記憶の苦しそうな笑顔を書き換えたい。
まだ見たことない、満面の笑みに__。
私は気がつく。どうしてそんなにアイツに構わなきゃいけない。関係ない。アイツは関係ない。
けど何も考えないとアイツの顔を思い出す。
気にしてしまう。
__そうか、私はあの時から
__あの放課後から
赤崎が好きだったんだ。
好きになったんだ。
__確かにあの時は
怖かった。苦しかった。
恐怖でいっぱいだった。
__けれど、けれど、、!
その分君の魅力に気がついてしまった。
赤崎が私の腕を掴んだ時、そのまま血を飲んでも良かった。なんなら腕を噛まれても良かった。
何故、彼は飲まなかったのか。
私が怖がっていると思ったからだ。
気を使ってくれたのだ。彼なりに。
きっと、我慢していたんだ。
運命の血の持ち主を目の前にして。
普通の男子高校生じゃない君への想いに気がついたんだ。やっと。
吸血鬼だからいい。
普通じゃないからいい。
女たらしでもいい。
今なら血を吸われたい。
私だけを吸ってほしい。
どうしようもない欲求が私を興奮させる。
顔が赤くなっていることを感じる。
“好き”
その二文字。
私は伝えたいんだ。
君に。
吸血鬼の君に。
チャイムが鳴ってクラスメイト達は次々に立ち上がる。
無性に立ち上がる。
アイツに会いたかった。一刻も早く。
廊下は涼しかった。
肌寒くも感じられた。もう秋のようだ。
廊下を歩きつつ気づく。
私は赤崎の場所を知らない。
当たり前だ。皆、原因も知らないのだから。
湧き上がった感情を押し潰し、諦めて教室へ戻る。
すると私の机に待ち伏せるように
クラスの一軍女子が立ちはだかっていた。
一瞬で察した。
なるほど、赤崎のことだな。
不機嫌な口調で話す。
やはりと思った。
「…あんさぁ…あんた昨日赤崎に呼び出されたんだって…?」
事実だ。装っても仕方がない。
正直に答える。
「…はい。」
「何したんだよ…?」
血を吸われそうになった。
事実はそうだ。
正直に言うと面倒だ。
「…」
私は黙る。
「…」
沈黙が続く。
張り詰めた時間だけが過ぎていく。
__ふと
クラスメイトの手が動いたと思った瞬間__
「パァンッ」
私は彼女の平手打ちを食らっていた。
「ッ…ぁ…」
痛い。
思わず座り込む。
彼女は私を見下して言葉を続ける。
「もうさ…赤崎くんと関わらないで?」
私の心臓から胃まで
大きな空洞が空いた気がした。
“関わらないで”
私はその言葉の重みを知った。
初めてちゃんと赤崎の気持ちが分かった気がする。
より一層、赤崎に謝りたい。
__私は今どんな顔だろう。
辛そうなのか。
苦しそうなのか。
泣きそうなのか。
__あの時の赤崎と同じだろう。
「…ごめんなさい」
ボソッと呟いた。
「…っ」
あまりにストレートに謝られたらしく、相手は唸る。
「…っなんだよ、気持ち悪ぃなっ…!」
感情に身を任せた行動。
また来る__。
その時クラスメイトの誰かが声を上げた。
「…あっ…!あれ、赤崎様じゃない…ッ?」
皆の視線が屋上へと移る。
手の動きも止まる。
…!
屋上に何やら人影がある。
フェンスにもたれかかっている。
うなだれているようにも見える。
私は教室を出た。
今度は無性じゃない。
伝えたいことが決まった。
行くところが決まった。
今だ。走れ。私。
俺はあの時。あの放課後。
かつてない衝撃を受けた。
「二度と私と_関わるな」
関わるな?そんなの無理だ。
お前は俺が16年間探し続けてきた
“運命の血の持ち主”だぞ。
会った瞬間”それ”が分かるというのは本当らしい。
そしてその瞬間、
__好きになるのも本当らしい。
まだきっと彼女は
まだ理解していないだろう。
納得できていないだろう。
自分が運命の血の持ち主だということに。
_彼女が
理解していなくても、納得していなくても、
俺は彼女の血を吸いたい。
_橙川🍫、俺はお前のことが好きだ。
そう気がついた、あの放課後。
もう一人ほど吸血の予約していた。
__けれど吸いたくなかった。
いいや、嘘だ。
吸いたかった。凄く。
さっき彼女に目の前に滴る血を見せられて。
結局吸うことができなかったのに
今、目の前に新しい”血”がきたのだ。
吸うしかないだろう。
だけど俺は吸わなかった。
自分の意思で。
決めたんだ。
彼女しか吸わないと。
誓ったんだ。
裏切り者。
女たらし。
そう新しい”血”に貶されても。
精一杯の暴論で罵倒されても。
別にいい。
俺は女たらしだし、裏切り者だし、
女を血としか見ていない。
お前はたかが人間。俺は吸血鬼。
俺が吸うと”血”からは俺の記憶が失くなる。
だから、どんなに貶されてもいい。
だから、どんなに嘘をついてもいい。
だから、どんなに吸ってもいい。
だから、吸うのは誰でもいい。
だから、深く関わらないでいい。
__一人を除いて。
その一人を見つけてしまった。
10分前、この教室で。
“ヒト”として見ることができる者がいた。
関わりたい。
彼女の血だけを吸いたい。
「二度と私と_関わるな」
またそう言われるかもしれない。
女たらしだと罵倒されるかもしれない。
話してもくれないかもしれない。
一緒の空間にいることさえ拒絶されるかもしれない。
それでもいい。なんでもいい。
また傷ついてもいい。
ただ俺は彼女に伝えたい。
この思いを。俺の決意を。
__今度は満面の笑みで。
__そんなことを思い出していたら
音もなく屋上のドアが空いた。
力が入らない体を無理矢理動かし顔を上げる。
__そこには
「…ッハァ…ハァ…」
「…ッ赤崎…っ!」
__辛そうで
__苦しそうで
__泣きそうな
__あの時の俺の生き写しみたいな彼女が
俺の名前を呼んだ。
コメント
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もぉ☆ちーや様ったら神超えて神美なんだから☆
うんうんちーやさんが作るノベル上手すぎん????続きが気になりすぎる…