「催眠術?」
それはほんの少しの期待の筈だった。
「催眠術?」
催眠術なんて、聞いたことがある人の方が多いだろう。もし実際にあってもやる人なんて少数派だ。かからない方が多いから。
「最近聞いてね。君ならかからないだろうと思って来たのさ。」
「へえ………テイワットにそんなものがあったんだ。俺ですら初めて聞いた」
「そ、だから君のとこに来たんだ。1人目の実験者としてね。」
「ふうん…まあ俺は別にいいけど、でも本当にかかっても変なことは言わないでね」
「君は特別な力を持っているだろう?大丈夫だ」
嫌な予感はする。それを見逃しながら少しの期待を寄せた。
「準備はできているかい?」
「勿論。怖いもの知らずでもあるからね。」
「ふん…それが仇となるかもしれないけど。」
テイワットでも聞いたことのないこと。旅人は僅かに期待の目をして待っている。
もし本当にかかったらとか考えないのだろうか?もしかしたら本当に、本当にあるのかもしれないんじゃないか。
「上を向いて。限界まで。」
「は?」
いきなり催眠術をかけるかと思ったら上を向けって。流石に無理がある。素っ頓狂な声を上げながら咄嗟に「そういう事を言って罠に陥れようとしているのでは」と考えてしまう。
「放浪者、なんで「いいから。早く。」
いつも以上に真剣な顔でこっちを向いてくる。だからなかなかに断れなくなってしまい、ちょっとした焦燥感に駆られながらも仕方なく指示に従う。
「…放浪者、目乾いて来た。」
「それでいい、そうしたら目を閉じて。ゆっくり…ゆっくりでいい。」
「ん…」
目から涙が溢れそうになるが、目を閉じたら集中しているのか。どういう訳か涙のことなんて気にしなくなってしまった。
パチン!
「!?あ、ほうろ、」
「どうだい。目は開く?」
「ふっ、ぅ…ダメだ…え、ど、どうすれば」
「慌てなくていい。君は僕の言うことに従って言わればいいのさ。」
聞いたことのある声だからか?安心感が湧いてきて、信じたらどうなるかすらもわからない癖に異常な程急に落ち着く。
「えっ」
何をしでかすかと思ったら手を握られる。優しく、人形な筈なのに温かい手で。
「放浪者…催眠術は?」
「いいから黙って」
質問をしても黙れだとか喋るなとか言われて少し寂しい。
「…ほら、手が温かくなってきただろう?その調子で…眠くなって」
「ぅ…っ、ふ…」
未知の感覚に襲われ、不安が増していく。でもどこか温かい気配を感じて段々と瞼が更に開かなくなっていく。重たい瞼を開こうとしても開かなくて、しょうがなく声だけを聞いて言う通りにする。
「ゆっくり…息を吐いて。1…2……1…2………」
手が温かくなっていく感覚を感じ、一気に眠くなる。このまま寝てしまおうか?いや、催眠術は?と頭の中でぐるぐるしながらも放浪者の言うことに従うしかない。
「うん…それでいい…それじゃ…」
パチン!
「うわ!?」
「やっと起きたかい。間抜けめ。」
あれ?眠ってた?どうしてだろうかと眠る前の記憶をふと蘇らせる。
あ、そうだ。催眠術
「あ…ごめん、寝ちゃってた…」
「別にいい。元々そのつもりだったからね。」
「…?え?」
「気にするな。それよりあのおチビが待ってるから早く帰った方がいいんじゃないの。」
「あっそうだった…!パイモン!」
「催眠術は…またいつかやろう。それじゃ。」
塵歌壺の玄関にまで見送られ、そのまま外へ追い出される。
ふと、何かが溢れ、足を伝うようにポタポタと流れる。
「あれ?白い…昨日なんかあったっけ…?」
流れていく何かを拭いながらもパイモンの元へ寄る。
「あ!おーい!お前、どうしたんだ!?勝手にどっか行くなよ!」
「ごめんごめん!今日のご飯はどうする?」
そんな世間話をしながらカフェへ入る。
視界の隅に、青い笠が映る。気のせいだったかな。
コメント
3件
どどど、どういうことなんだ??とりあえず可愛いということは分かったぞ!
最っ高!!!!!すぎるぅ〜!!